マイスター
ワーグナーの楽劇に有名な「ニュルンベルグのマイスタージンガー」というのがある。
マイスター制度はヨーロッパ中世から発達した業種毎の職人の組合(ギルド)で、マイスターの資格をとるには若いうちに弟子入りして徒弟制で厳しい現場教育を経た後、試験に合格することが必要だ。それだけに一目も置かれていたようだ。
ワーグナーの楽劇に登場するハンス・ザックスなるマイスターは靴作り職人だが、ニュルンベルグは金属加工業も盛んで、バロック時代は金管楽器製作のメッカでもあった。ドイツ国内ばかりでなく、周辺諸国(イギリスを除く)や北欧の王室、皇族からの注文も一手に引き受けていたらしい。
ラッパ製作も当然のことながらマイスター制だ。とりわけニュルンベルグで有名だったマイスターはEhe(エーエ)一族とHaas(ハース)一族であった。エーエ家では1607年にIsaac Ehe がマイスターになってから1751年の Martin Ehe まで9人のマイスターを輩出、ハース家は Johann Wilhelm Haas (1676) から Jo Adam Haas (1796) まで4人。3代目ハースはかなりの資産家でもあったようで商売がいかに繁盛していたかが伺われる。現代複製されているナチュラルトランペットもこのどちらかの系列のモデルのコピーがほとんどだ。
現代製作されているレプリカの中で、当時の工具を使い当時の製作方法に則って手作りで楽器を作っているのは(僕が調べた限りでは)カナダの Robert Barclay とオランダの Geert Jan van der Heide および同じくオランダの Graham Nicholson の3人だけといえる。それ以外のメーカーは何らかの形で機械を使っていて現代工法に頼っている。
手作りにこだわるのには訳がある。チューブにしろ、ベルの部分にしろ、手で叩いて金型を伸ばして作ることにより、内部に微妙な凹凸ができる。これが自然倍音のみならずベンディング奏法で音程を唇で調整することを容易にするからだ。
いわばこれら現代のマイスターは長年の研究、調査および試行錯誤により Ehe や Haas を復元するノウハウを蓄積してきている。心配なのは、その技はこれらの人たちがいなくなったらそうやすやすと伝承されないのではないかということ。ナチュラルトランペットの需要なんて限られていますからね。せっかく復元された技術がマイスターとともに失われてしまうリスクがある。
とかなんとか、要は口実なんだけど、こないだゲットしたスライドトランペットの具合が期待を上回って良かったので、Heide にナチュラルトランペットの注文をしてしまった。せっかくだから装飾は思いっきり付けてね ということで。納期は約8ヶ月後。楽器の到着が今から楽しみだ。
| 固定リンク
「トランペットの話題」カテゴリの記事
- ブラスアンサンブル編曲(ダウランド)(2020.04.23)
- 高音攻略法(2023.07.25)
- ナチュラルトランペットのウォームアップ(動画紹介)(2022.10.22)
- 思いつき話(2022.08.18)
- ラッパ購入遍歴(その2)(2022.06.30)
コメント