チャンセンター
写真家の木之下晃氏のライフワークの一つに世界のコンサートホールを撮るというのがあって、それが月刊誌「音楽の友」に連載されている。
最新号はカナダの西海岸の港町、バンクーバーにあるチャンセンターだ。ホールについての説明はそこに詳しく書かれているが、もともとは香港で事業を興したチャンさん(陳さんと書くのかな)が一代で事業に成功して、のちカナダのバンクーバーに移住し、その富を社会に還元する一環としていろいろな寄付や活動をしているうちの一つとしてこのホールが建てられたそうだ。ホールはバンクーバーの一角を占める広大な敷地のブリティッシュコロンビア大学(UBC)の中に建てられ、寄付者の名前をとってチャンセンターと名付けられたとのこと。ホールのこけら落としの際にはさまざまなコンサートが豪華な出演者によって開かれたそうで、チャンさんご自身はその後数年して他界してしまったが、福祉事業は遺族の方により続けられているとのこと。
やっぱりビジネスとして採算の取りにくい音楽、特にクラシックにはこうしたパトロンが必要だよね。
チャンセンターは2000年の夏に行ったことがある。毎年開かれるバンクーバー古楽フェスティバルのその年のテーマは初期バロックで、サマースクールのコルネットコース(先生はBruce Dickey)に参加した時のことだ。チャンセンターではモンテヴェルディ「聖母マリアの夕べの祈り」のコンサートが開かれた。オケは混合だったがブラスはコンチェルトパラティーノの面々。
僕の聴いた席はほとんど天井桟敷のようなところだったけど、確かに立派なホールで響きも良かった。休憩時間のホワイエは地元の社交場の役割を果たしていて、大学とホールが地域に密着して成り立っていることがよくうかがえた。
日本にも素敵なホールがいろいろあるが、そうしたホールのひとつ、横浜のみなとみらい大ホールで来月21日に演目も同じ「聖母マリアの夕べの祈り」を演奏することになっている。楽しみだ。
| 固定リンク
「本・雑誌・映画」カテゴリの記事
- 「ドライブ・マイ・カー」(2022.01.21)
- 翻訳初出(2019.04.20)
- The Cambridge Encyclopedia of Brass Instruments(2020.04.06)
- 「暇と退屈の倫理学」(2018.05.24)
- 「良心をもたない人たち」(2018.05.23)
コメント