懐古風随筆(その2)
(その1よりつづく)
始めてみると、古楽器演奏の可能性の広さに魅せられてしまった。師匠の濱田さんはコルネット(木製でリコーダーの先にトランペットのようなマウスピースがついている。バロック時代には活躍したが一旦滅びて、戦後再び蘇生した極めて珍しい、しかも演奏は困難を極める楽器)の世界的奏者である。
古楽の世界はこの楽器に限らないが、自分のような初心者でも世界の超一流プレーヤーにすぐアクセスできる点がたまらない魅力でもある。
レッスンに通い出すと、楽譜の読み方に始まって、使用する音律(昔は平均律はなかったので)、楽器の奏法、音楽の作り方、アンサンブルの仕方などなど、目からウロコのことばかり。なんでこんなことも知らずに音楽をやってきてたんだろう。古い時代の音楽でありながら、クラシックが失ってしまった何かを創り出すというクリエイティヴで刺激的な世界がそこにあった。
よーし、いっちょこの世界に思いっきり飛び込んでみるか、ということでオケもアンサンブルも辞めて、ついでに(モダンの)トランペットもほとんど売っぱらって、今まで住んでいた世界とおさらばをした。それから数年コルネット1本(実際は数年で家の中にコルネットが数本ゴロゴロすることにはなったが)での修行生活。修行の話はまた別の機会にお話するということで割愛して、とりあえずレッスンの甲斐あってなんとか曲も吹けるようになった。師匠の主宰する団体、アントネッロでもお手伝いで使っていただけるまでになった。実はそれがこの楽器を始めたときの夢の一つでもあったので、実現した時にはうれしかった!
そしてコルネットが一段落したところでなんだかまたラッパが呼んでいるいるような気がしてきた。ラッパと言っても今度はナチュラルトランペットという楽器。17,18世紀頃の花形楽器で、ヘンデルやバッハで大活躍する。ピストンがなく自然倍音のみで音を組み立てるうえに、楽器の長さが普通のトランペットの2倍近くはあるからコントロールに苦労する、これもまた演奏困難な楽器だ。しかもバッハはブランデンブルグ協奏曲第2番に象徴されるように、とんでもなく高い音域での演奏を要求する。
モダン楽器を吹いていた頃には音を外してばかりで手が出なかったこの楽器(実際昔ブラスアンサンブルのコンサートで使ったことがあったが、結果は惨憺たるものだった)だが、一旦コルネットだけの修行をして数年のブランクがあったのが良かったのか、改めてこの楽器にチャレンジしてみたらなんとかなりそうな気がしてきた。というわけで、我流でこの楽器に取り組み出す。
ところが、やはり一筋縄ではいかない問題がそこにはあった。(その3につづく)
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