ナチュラルトランペットとは
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ナチュラルトランペットとは
16世紀から19世紀にかけて(音楽史的にはバロック時代から古典派にかけて)ヨーロッパで使われていたトランペットは、基本的な発声の原理は同じながら、形状は現代のものとは大きく異なっていました。すなわち、マウスピースで唇の振動を音に変え、それをある一定の長さを持つ管で一定の音程にし、朝顔部分で音量を拡大するという基本原理は同じです。しかしながら、管の長さや音の高低を変える機能は異なっており、別の楽器ととらえた方がいいかもしれません。バロック時代の楽器ではオーボエやヴァイオリンなど他の楽器も現代のものとでは違いがありますが、トランペットの場合はその隔たりがとりわけ大きいように思います。また、その違いは同じ金管楽器と比べてみてもホルンやトロンボーンにおけるその格差よりも数段大きいと言えます。
現代では当時のトランペットを(その機能に着目して)ナチュラルトランペットと呼んでいます。「ナチュラル」、すなわち自然倍音のみを出すトランペットという意味で、構造としては金属のマウスピース、真鍮の円筒管プラス朝顔部分から成る極めて単純な楽器です。現代のトランペットのようなピストン(バルブを押すことによって管の長さを延長させる機能)はついていません。管の長さが長くなればなるほど、より多くの自然倍音を吹奏することが可能になるので、なるべく多くの音を出すためには必然的にある一定以上の長さが必要となります。
バロック時代のトランペットでよく使われる調性はCとDですが、A=440Hzの場合のC管のトランペットの長さは8フィートありました。現代のC管の楽器の長さは4フィートですから、ちょうど2倍の長さです(倍の長さは振動数からすると1オクターブに相当します)。この8フィートの楽器を使うと、下の自然倍音の図にあるように、音としては下から、ド(ペダルトーン)、ド、ソ、ド、ミ、ソ、シb、ド、レ、ミ、ファ#、ソ、ラ、シb、シ、ド(以上第16倍音まで)の音が使用可能になります。これに対し現代の楽器ではピストンの助けにより第8倍音まで使えば同じ音域の音が出せることになっています。
ナチュラルトランペットの大きな特徴としては、この高い倍音列を使うことによるメリットとデメリットがあります。メリットは音色です。音の中に複数の倍音が混じることにより豊かな音色が得られます。これはバロックのレパートリーをピッコロトランペットで演奏したものと比較すれば一目瞭然です。ピッコロトランペットはナチュラルの4分の1の長さしかありません。また使うのも第5倍音くらいまでです。ピッコロトランペットの音色はきらびやかである反面、鋭すぎるという面もあります。一方、デメリットは高次の近接する倍音を使うため、しかもそれを唇の振動のみでコントロールしなければならないため、音を外しやすいということ。さらに、いくつかの音(11倍音のファ#および13倍音のラ)は現代の平均律と比較すると、音律から離れた調子はずれの音程であることなどです。
当時のトランペット奏者はこうした調子はずれの音および倍音以外の音(バッハの曲には頻繁に出てきます)を出すために、ベンディング(唇をゆるめることによって音程を微妙に下げる)という技術によって補っていました。これは簡単に出来るものではなく、かなりの訓練を必要とするものです。実際当時のギルド的なトランペット奏者の世界では一人前のラッパ吹きになるために師匠の元で最低2年間の泊まり込み修行が必須だったとされています。そこで朝から晩まで高度なテクニックを習得するために厳しい訓練を重ねていたのです。
その後、ナチュラルトランペットが活躍した時代が終わってしまった後になって、この昔の時代の楽器を復興するという動きが盛んになった時に、ナチュラルトランペットに関しては、この音程の乖離の問題と演奏の困難さをなんとか解決しなくてはという問題が生じました。その過程で、1960年代になって、楽器の管の途中に小さな孔をあけることにより、音を外しにくくなったり、調子はずれの音の音程を調節できるということが発見されました。この補正孔の数はシステムの違いによって1つ、3つ、あるいは4つと異なりますが、こうした補正孔を施した楽器を、本来のナチュラルトランペットと区別する意味で「バロック・トランペット」と呼ぶようになりました。(次に続く)
(写真上がナチュラルトランペット、下が4孔バロックトランペット)
(このページの最初の写真はJohann Leonhard Eheが1746年に製作したナチュラルトランペット。ニュルンベルク、ゲルマン国立博物館蔵)
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