補正孔の是非について
(前から続く)従って、ナチュラルトランペットに音程補正のための孔を開けたバロックトランペットは、純粋な意味でのピリオド楽器(その時代に使われた楽器のコピー)とは言えませんし、現に真に正統な演奏を追求するには孔なしの楽器でなければならないと主張する人たちもいます。その論拠として、楽器に穴をあけることによってナチュラル特有の音色の良さが失われるという他に、「調子はずれのトランペットの音列は、そういうものとして当時の人たちに認知されていた」という説がありますが、私はこれは少し違うのではないかと思っています。古代から音楽を数学・天文学の一分野とし、ピタゴラス音律、純正律、ミーントーン、さらにさまざまな音律をよりよい和声とより少ない妥協を求めて開発してきている音楽の歴史の中にあって、ひとり金管族の自然倍音だけが大きく乖離したまま許されたということはないと思います。強いて言えばやむを得ずはずれものとして存在を許されていた、というところではないでしょうか。そうした居心地の悪さを少しでも少なくしようとして、当時のトランペット奏者たちはベンディングなる高等技術をもって解決しようとしたし、実際ギルド的な秘伝の訓練の成果で少数ながらも本当に上手に音程を操れる人たちがいたおかげで、当時の作曲者たちはその本来は調子はずれな音も使用して作曲できたのだと考えます。そうでなければ、ヘンデルが第11倍音のファの音を所に応じてシャープにしたりナチュラルに指定したりはしないでしょうし、バッハが倍音列にないド#やミb、その他さまざまな音をトランペットに要求するはずがありません。
さて、そこで問題は現代のわれわれが同じ努力をする必要があるかどうかということになりますが、私はこれには否定的な考えです。実際補正孔の助けを借りて吹いてみると実に楽に音程の調整ができますし、さらに使える音も増えます(先ほどのド#ミbなど)。また、高次倍音(上のミやソなどの音)においては、音を当てる時の安全性が増します。そうしたメリットに比べて失うものは、確かに響きが薄くなるなどの欠点はありますが、許容範囲ではないかと私は思います。人によっては正統性という看板を下ろすことにかなりの抵抗があるのかもしれませんが、そこにどれだけのこだわりを持つか、現実的に考えられるかどうかの違いでしょう。例えは少々乱暴かもしれませんが、バロックヴァイオリンを弾く時に楽器を安定させたいから顎当て使いたいという人に対して、それはもうバロックじゃないよ、と非難するといった類いの偏狭な考え方に近いのではないでしょうか。
補正孔を使ってでもバロックトランペットを使い、その響きを活かした方がいいと思いますし、そうした考えが広まってバロックトランペットが古典派などを取り上げるオーケストラなどにもっと普及してその違いを実感してもらうほうがいいのではないかと考えています。(次に続く)
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