« ナチュラルトランペットの教則本 | トップページ | 演奏会終了 »

2008/08/26

バロック音楽の演奏スタイル

エドワード・タールの上記のタイトルの文章を見つけたのでかいつまんで紹介したいと思います。

バロック音楽の演奏スタイル

現代のオーケストラの演奏に比べるとバロック音楽のスタイルは、ートランペットに限らずーいくつかの顕著な違いがあります。

(1)音程(音律)
1550年頃から1815年頃までに主流だったいろいろな音律は1つの共通点がありました、すなわち3度を純正にとる(振動数でいうと5対4の比率)ことを優先するというものです。これはナチュラルトランペットには都合のいいことでした。というのも自然倍音では必然的に5対4の比率になるからです。従って平均律に調律された現代の鍵盤楽器は理論的には調子はずれということになります。

(2)強拍と弱拍
強拍と弱拍の違いは、現代の均等で器楽的なスタイルに比べると遥かに大きかったという違いがあります。さらにカッチーニの「新しい音楽(1600)」やファンティーニの教本(1638)の双方に記述されているバロック時代初期に始まった声楽の装飾法、「メッサ・ディ・ヴォーチェ」ーー長い音のときはクレッシェンドとディミヌエンドを伴う、という独特のものもあります。これはバロック時代を通じて使われており、レオポルト・モーツアルトのヴァイオリン教本(1756)にも、個々の音のボウイングについて「初めはゆっくり、中程を早く、音の終わりにかけて消え入るように弾く」とあります。

(3)発音(アーティキュレーション)
アーティキュレーションについては1535年から1795年までに著されたさまざまな資料に記述があります。トランペットでは有名なファンティーニの教本の10ページと11ページばかりでなく、リコーダーやコルネット、フルートの教本などで詳細に取り扱われています。これらに共通する一般的なルールは音程が2度のときには不均等なアーティキュレーション(tやdなどの強いシラブルとrやlなどの弱いシラブルを交互に発音することによって得られる)を使用し、同じ高さの音が続く場合あるいはアルペジオの時には同じシラブルを使用するというものです。

(4)即興
初期の木管の教本ではいかにして即興をするかということにかなりの部分が充てられています。ただしベンディネッリやファンティーニ、アルテンブルグなどのトランペットの教本では少なめの取り扱いにはなっています。(スケールにおける自由度が少ないためと思われます)

(5)ピラミッド
バロックトランペットは現代のピッコロトランペットに比べて優しい音色です。それは管の長さ(224cm対65cm)と大きめのマウスピース(ボアの径が4-6mm対3.6-3.8mm)によりもたらされるものです。バロックトランペットのアンサンブルを演奏するのはオルガンに例えるといいかもしれません。オルガンの音はあたかもピラミッドのように低音がずっしりと重く大きく、高音部分は軽やかです。これに対してジャズのビッグバンドではリードトランペットがどのパートも圧して上に君臨して聴こえなければなりません。バロック時代のトランペットの名手たちはファンティーニからショア、ライヒェにいたるまで、そのパワーではなくてその華麗さに対して賞賛を受けていたのです。

(6)結論
ルネサンスとバロックの時期の器楽の基本はとにかく人の声を真似ることでした。先に述べた5つのポイントはとりもなおさずトランペットの演奏を声楽的な基本的スタイルにするためのものです。近年、バロックオーケストラがいわゆるピリオド楽器を使っているのは、後年のレパートリーを演奏するための近代的大オーケストラに対する反動でもあったのでした。しかしながら、バロックトランペットを持っているからといってバロックのスタイルの演奏ができるというものではないのです。

エドワード・タール

(この稿終わり)

|

« ナチュラルトランペットの教則本 | トップページ | 演奏会終了 »

トランペットの話題」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ナチュラルトランペットの教則本 | トップページ | 演奏会終了 »