現代のナチュラルトランペット奏者とお奨めCD
現在活躍中のナチュラルトランペットのプレーヤーとそのお奨めCDです。
【一推し】
Niklas Eklund 何と言っても一番はこの人。1969年生まれのスウェーデン人。父もトランペット奏者の音楽一家。バロックトランペットはバーゼルでエドワード・タールに習っています。今はカナダのモントリオールに住んでいるらしい。とにかく上手くてすごい!国際アルテンブルグ・バロックトランペットコンクール第1回 (1996)の優勝者です。使用楽器はエッガーの3つ孔タイプ。
でも残念ながらトランペットの演奏はもうお辞めになっているようです(2019年追記)
The Art of the Baroque Trumpet vol.1 - vol.5 (NAXOS)
どれもお奨め(しかも廉価盤!)ですが、特に第1巻と第3巻が良いと思います。初期バロックの奏法を勉強するには第2巻が必聴です。
Bach Cantatas - Gardiner vol.8 (SDG104)
ガーディナー指揮のイングリッシュ・バロック・ソロイスツの中でカンタータの51番を演奏しています。
J.S. Bach Weihnachts Oratorium BWV248 - Gardiner (DVD) CDではありませんが、1999年にワイマールで収録されたライヴのDVDです。第8曲目と終曲はこれがライヴとは信じられない完璧な出来で、しかもフィンガリングやアンプシュアなども見て参考になります。
J.S. Bach - Brandenburg Concerto No.2 BWV1047 (NAXOS)
ブランデンブルグ第2番の完璧な演奏。この難曲に対して余裕すらあるところに凄みを感じます。
【ドイツ・オーストリアの演奏家】
Friedemann Immer ドイツの大御所。ケルンとアムステルダムで教鞭を執っています。ソロよりはアンサンブルやオケでの活躍のほうが多いかもしれません。体が大きいのでオケで吹いていてもすごい存在感があります。楽器は昔はMeinlを使っていたようですが最近はエッガーのようです。3つ孔タイプ。
Trumpet Concertos of the Early Baroque (Musikproduction DG 605 0271-2)
インマーのソロCDは意外と少ないです。
Balletti Sonaten und Serenaden am Hof zu Kremsier (MDG 3369)
トランペットコンソート・フリーデマンインマーというアンサンブル団体での演奏。
400 Jahre Naturtrompete (Balance BAL-9461-1)
これもトランペットコンソート・フリーデマンインマーの演奏です。モンテヴェルディからブリテンまでナチュラルトランペット400年の歴史を俯瞰することができます。
J. S. Bach Messe H-moll - Thomas Hengelbrock/Freiburger Barockorchester (DHM)
J. S. Bach Christmas Oratorio - Rene Jacobs/ Akademie fur alte musik berlin (HM)
インマーの本領が発揮されるのはやはりオーケストラじゃないかと思います。レオンハルト指揮のロ短調(ラ・プティットバンド)でも1st吹いています。
Reinhold Friedrich モダンのオーケストラでの活躍は有名です。永らくフランクフルト放送交響楽団で主席を務めていました。バーゼルでタール教授に習っています。普通のラッパもピッコロトランペットも言うまでもなく上手ですがバロックトランペットやキイ・トランペットも巧みに操ります。名手は道具の違いなど苦にしないのでしょうか。楽器はエッガーの3孔ショートタイプ。
Tribute to Old England (Capriccio 67 013)
イギリスの音楽集です。フリードリッヒのバロック初アルバム。
Jauchzet Gott - Cantatas for soprano and trumpet (Deutschlandradio Kultur 102)
バッハのカンタータ51番を含むソプラノとのデュエット集です。
Ute Hartwich ドイツの女流トランペット奏者。インマーの元で学んだあとバーゼルでタール氏の指導を受けています。今はライプチッヒに住んでフリーランスとしてベルリンやケルン、フライブルグ、ブレーメンなどドイツ各地の古楽オケで活躍しているようです。
Anima Mea - Musik der Hofkapelle zu Kremsier (Marc Aurel 20017)
副題の通りモラヴィアのクロメルジーシュゆかりの音楽を集めたアルバム。粋です。
Andreas Lackner
インスブルック在住のオーストリア人。アーノンクールの古楽オケの録音によく参加しています。彼が使っている楽器はバロックはウェッブ、クラシカルはエッガーの4つ孔のロングタイプでした。同じインスブルックの作曲家ということでここではBiber の曲集を紹介します。
H.I.F.Biber - Balletti & Sonatas for Trumpets and Strings /Clemancic Consort (OEHMS Classics 515)
【イタリアとフランスの奏者】
Gabriele Cassone イタリア人のカッソーネはバロックトランペットの第一人者であると同時に現代音楽も得意としています。ベリオのゼクエンツァXの初演等もしています。ソロ活動の他にオルガン奏者のAntonio Frige と組んでEnsemble Pian & Forte での活躍も目立ちます。使用楽器はイタリアのComo のSomani、4つ孔ロングタイプです。
J. S. Bach Brandenburg Concertos - Il Giardino Armonico (Teldec 4509-98442-2)
カッソーネは最近出たアレッサンドリーニのブランデンブルグ2番でもソロを吹いていますが、演奏の見事さはこのジャルディーノ・アルモニコ盤の方が一枚上です。鮮やか!
Gaffi/La forza del divino amore - Ensemble Pian & Forte (Chandos CHAN0710)
ブランデンブルグもそうだったんですが、この人はCDによって演奏にムラがあるような気がします。イタリア人だからでしょうか、このCDのように歌との合わせものの方がリリカルで聴かせます。
Jean-Francois Madeuf この人はすごい。フランスのナチュラルトランペット奏者、ジャン-フランソワ・マドゥーフ。いわゆる孔無しの正統的なナチュラルの奏法を現代によみがえらせた名手です。今はタール教授のあとを継いでバーゼルのスコラ・カントールムの教授をしています。2008年の福岡古楽音楽祭のブランデンブルク協奏曲全曲演奏での2番の完璧な演奏を聴いて或る人は彼のことを「神の唇を持ったトランペット吹き」と称していました。どんなにすごいかはナチュラルをやったことがある人しか判らないかもしれませんが、とにかく一聴(一見)に値します。楽器はバンベルグのトランペット職人、マルケス・ラケの作ったものなどを使っているようです。言うまでもなく孔なし。
Handel - Water Music & Fireworks (Glossa GCD 921606)
エルヴェ・ニケ指揮コンセール・スピリチュアルでの演奏。ナチュラルトランペット隊を率いるのが彼です。ともかく爽快な演奏。
Marc Antoine Charpentier - Te Deum (Ricercar RIC 245)
フランス・バロックのイネガル演奏とはこういうのだったんですね。これもお勧めです。
Guy Ferber 1966年生まれのフランス人。第1回アルテンブルグコンクールで2位でした。1999年からヘレヴェッヘ率いるCollegium Vocale Gent の首席奏者を務めており、2006年の来日公演(ロ短調ミサ)でも素晴らしい妙技を披露してくれました。メーカーは不明ですが、3つ孔のショートタイプ(多分エッガー?)を使っていました。ソロCDも出ています(European Baroque Music for Baroque Trumpet and Organ, Amati 2204/1)が、あまりきらびやかではありません。ここではオケでの演奏のCDをお奨めします。
Tonet, ihr Pauken! J.S.Bach Cantates profanes - Herreweghe (HMC901860)
世俗カンタータ207番と214番のカップリングです。中でもトラック5のリトルネッロが聴きものです。なかなかこういうふうに吹けるものではありません。
【イギリスの奏者たち】
プレーヤーは多いのですが、イギリス特有のフリーランス制とモダン楽器との併用がいけないのでしょうか、いま一つこの奏者がソリストとして突出しているという人はいないような気が。
一番ソロCDが多いのは Crispian Steele-Perkins ですね。
Let the Trumpet Sound (Carlton 30366 00382)
この人の楽器のコレクションはすごいです。オリジナル楽器もいろいろ所有しているようですが普段は何を使っているんでしょうか。
Stephen Keavy 個人的なことではありますが、キーヴィさんにはイタリアのシリコというところで1週間ナチュラルトランペットの指導をしていただいたという縁で私のバロックトランペットにおける師匠です。実は彼と私は誕生日も数日しか違わないということも判明しいいお友達になりました。彼は天才肌というよりは努力の人です。合宿の時も毎日2時間の基礎練を欠かさない。「これが自分の選んだ道だから仕方がない、基礎練はもう生活の一部だ」と言って笑ってました。従ってCDでの演奏も鮮やかというよりは職人芸的な確かさでこなしている印象です。CDではトン・コープマン指揮のバッハ/カンタータ全集のソロトランペットを担当しています。ところがなぜか51番だけはカッソーネが吹いている!どうしたんでしょうか。ここではクリスマスオラトリオのCDを紹介しておきます。
Weihnachts Oratorium - Herreveghe/Collegium Vocale, Ghent (Virgin Classics)
使用楽器はKeavy, すなわち自作楽器ですね。
Mark Bennett Michael Laird 率いるBaroque Brass of London の中でソロパートを担当していました。使用楽器はMatthew Parker。イギリスのプレーヤーはキーヴィやパーカーなど皆4つ孔のロングタイプです。
Sound the Trumpet.. Henry Purcell and his Followers (Hyperion CDA66817)
このCDはMichael Laird (楽器はKeavy)との競演です。
【その他のプレーヤー】
Susan Williams オーストラリア出身の女性トランぺッター、スーザン・ウィリアムズもいろんな古楽オケで活躍しています。現在はドイツのブレーメンに住んでハーグ音楽院などで教えています。スペインの音楽家たちとClarincantoというユニークなアンサンブルを作っています。使用楽器はエッガーのショートタイプ。
Canciones de amor y de Guerra - Spanish Songs of Love and War (Pneuma PN390)
Paul Plunkett この人もオーストラリア出身。今はスイス、ドイツを活動の拠点にしています。昔は彼だったんですが、今は彼女!になったそう(現在の名前はアンナ・フリーマン)で、びっくりですよね。使用楽器はJurgen Voigt の3つ孔ショートタイプ。彼女?の書いたナチュラル用の教則本はハイノートでのメリスマバリバリで超難しい!トランペット全般について書かれた指導書は内容が多岐にわたりとても勉強になります。
Tromba Triumphans - Kammermusik und Barocktrompete (Winter&Winter 910 036-2)
【日本のプレーヤー】
最後に日本人の奏者の方々をご紹介します。
島田俊雄 何と言っても日本の第一人者はバッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)でおなじみの島田さんです。楽器は自作なさっています。だからバッハのカンタータのどんな楽器を使うべきかよく判明しない曲に対しても臨機応変に対応されていてすごいなと思います。
神代修 オーケストラ・リベラ・クラシカなどでご活躍の神代さんは純粋なナチュラルでの演奏にチャレンジなさってます。メインの使用楽器はエッガーのヒストリカルモデル。ラ・トロンバの会を主宰し後進の指導にもあたられています。
平井志郎 フリーランスの方ですが、平井さんもいろいろなところで活躍されています。使用楽器はパーカーの4つ孔。
福田善亮
元都響の主席奏者だった福田さんは今は札幌に居を移されました。東京書籍から出版されている「バッハ、カンタータの森を歩む」(磯山雅著)というCDブックにおさめられているカンタータ51番や147番で福田さんの演奏を聴く事ができます。
横田健徳 大阪テレマンアンサンブルのトランペット奏者です。使用楽器はキーヴィでしょうか、ロングタイプの4つ孔です。
井上直樹 山形交響楽団の首席奏者。山響ではモーツァルトシリーズなどにナチュラルトランペットやバロックティンパニを起用し、独特の路線で着実にファンを増やしています。CDになったブラームスのドイツレクイエムもいい響きしてます。楽器はエッガーの3つ孔とキーヴィの4つ孔ですね。
松野美樹 松野さんは桑名に住んでいらっしゃるフリーランスのトランペット奏者です。井上さんと同じくエッガーの3つ孔とキーヴィの4つ孔を使用されています。
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コメント
Eggerのナチュラルトランペットを買おうと思っていますが、3孔と4孔とどちらが良いですか?それと、ヒストリカルとスタンダートが有りますが、どちらがどの様に違い、良いのでしょうか?助言して頂ければ幸いです。
投稿: Fausto | 2012/05/02 00:18