« 第7倍音に萌え | トップページ | やっと10月も終わり »

2008/10/30

目標には到達できる(満足と驕慢が大敵)

以下はインターネットで見つけた記事の訳です。


1999年4月21日、ルイジアナ州立大学のマスタークラスにて

ニコラス・エクルンドはルイジアナ州立大学のトランペットの教授であるジム・ウェストと一緒に音楽室に登場した。エクルンド氏は昨夜のコンサートのときに会った僕のことを覚えていてくれていて僕に暖かく声をかけてくれた。それに勇気づけられたので彼のところへ行って、そう言えば昔シカゴで勉強したという有名なスウェーデン人のトランペット奏者でブレングト・エクルンドという人がいたことを思い出したんだけれどあなたとはつながりのある方ですか、と尋ねた。なんとそれは彼のお父さんだそうで、エクルンド氏は代々続く4代目のトランペット奏者なんだそうだ。おじいちゃんもひいおじいちゃんも皆トランペット奏者で時代としては19世紀半ばにまでさかのぼれるらしい。

ウェスト教授がエクルンド氏は今世界で最も素晴らしいバロックトランペットの奏者だと紹介してマスタークラスは始まった。昨日の演奏を聴いた僕には疑念の余地がないところだ。

エクルンド氏はスイスのエッガー社製のバロックトランペットを使用している。これは1680年頃のレプリカということだが彼はその音が気に入っているそうだ。「人が歌うような」音を出すのを目標にしていると彼は言う。バロックトランペットは現代の楽器(135cm)に比べてほぼ倍の長さ(265cm)がある。ヨーロッパではバロック音楽をピリオド楽器で演奏することがますます要請されてきているのでバロックトランペットも一般的になってきているが、アメリカではまだそこまでいっていない。

最初にロングトーンでウォーミングアップするところから実演してくれた。このロングトーンではシェイクやビブラートをかけない。できるだけリラックスしてフリーに音を出すよう心がける。彼はまたバロックでやる前にモダン楽器でウォーミングアップをするそうだ。コンサートの前には35分から40分くらいかけてウォーミングアップをする。大きい音を出すよりはメゾピアノくらいで柔らかな音を出すようにした方が唇のいい感覚をつかむのに良いともアドヴァイスがあった。メソッドとしては1880年代フランスのDauverneのもの。

それからバロック音楽奏法のいろいろ違ったアーティキュレーションの実演として、連続する16分音符の1つめと3つめにアクセントをつけて演奏した。レガートで演奏するつもりで、「doodle」とタンギングするか、「du-de-du-de du-de-du-de」などとやる。「同じことを決して2回繰り替えさないで」。バロック音楽を演奏するのはほとんどジャズの感覚に近いと彼は言う。

彼によればトランペットを演奏する際に一番大事な要素は柔軟性ということだ。例えばリップトリル、それをバロックの楽器とモダンのB管のどちらもで吹いてみせながら、「もしこれが上手にできるようになればどんなトランペットでも上手く出来るようになる」。リップトリルをするときは舌と息を使うのであって唇ではない。力ずくでやるのではなく、リラックスして舌と唇が勝手に働くようにするのがコツだ。チャールズ・コリン (Charles Colin) のフレキシビリティスタディが特にお奨めとのことだ。彼は毎日その教則本を全部さらっていると言っていた!それからリップトリルとスラーのエクササイズをデモンストレーションしてくれたが信じられないくらいのテクニックだった。

マウスピースについて質問すると、バロックについてはエドワード・タールが再生したモデルでバックの1-1/4Cと同じくらいのサイズだがすごくスロートが大きい(多分見たところボアが22くらいあったんじゃないだろうか)
。モダンのマウスピースはストークの1番でボア22、"f"バックボアだそうだ(Stork 1 22f)。
モダンの楽器はバックのストラディバリウスにボブ・マローンのリードパイプを付けたもの、ただし今はヤマハの専属アーティストになったのでヤマハを使っているとのこと。

トランペット演奏で一番影響を受けたのは誰かとの質問が他の人から出た。即答は「チェット・ベーカー」、それから一瞬考えて「うーん、モーリス・アンドレとウィントン・マルサリス、それにホーカン・ハーデンベルガー」と付け加えた。歌とヴァイオリンも好んで聴くそうだ。

ステージでアガることについての彼の話も面白かった。人は誰しも神経質になるもの、しかし段々場数を踏むにつれて不安感が少しずつ減ってくるし、さらに一段と熟練してくるとさらに少なくなる。
最近の例としてパリからロンドンに移動してすぐウォーミングアップなしでいきなり吹いたことを紹介した。そのとき指揮者はオーケストラに正しいテンポを示そうとして、彼にバッハのカンタータ66番をソロで吹くことを要求したのだった。こんなにプレッシャーがかかることはないだろう! 彼はその曲を我々の前で吹いてくれたが、それはまたとんでもなく難しそうな曲だった。でも完璧に吹いてみせた。すごい。

彼は我々に次のメッセージを残して行った。「目標を持つのはとても大事なことです。目標には到達できます、たとえそれがどんなものであれ」

ウェスト教授の言ったことは全く正しいと思った。ニコラス・エクルンドは現在世界で一番上手なバロックトランペット奏者だ。彼のプロ意識、コンサートでの芸術度の高さ、いづれも賞賛に値する。興味深く刺激的な教師であるのと同時に人柄も温かく親しみ深い。まだ29歳の若さだそうだ。30才になったらジャズトランペットを始めたいとのことで、来年またこのマスタークラスに来た時にはジャズも演奏しましょう、と彼は言った。ぜひとも聴いてみたいものだ。

Thomas G. Mungall

|

« 第7倍音に萌え | トップページ | やっと10月も終わり »

トランペットの話題」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« 第7倍音に萌え | トップページ | やっと10月も終わり »