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2008/10/04

ナチュラルトランペットのレパートリー(ハプスブルグ編)

オーストリア・ボヘミア・モラヴィア

ボヘミア・モラヴィアは今でいうチェコですね。オーストリアと一緒にしたのは要するにバロック時代、神聖ローマ帝国のハプスブルグ家の統治下にあった地域に独特の音楽が隆盛し、トランペットも活躍していたからです。16世紀のハプスブルグ家の皇帝であったマクシミリアン1世はチロルのインスブルックを首都とし、おかかえのトランペット奏者もたくさんいたことが記録に残っています。戴冠式や結婚式などの式典ではさぞ華やかにトランペットのファンファーレが王宮内に響いたに違いありません。17世紀には宮廷はウィーンに移り、周知の通り古典派以降は音楽の都といえばウィーンというのが定番ですが、それ以外の都市のザルツブルグ、小さい都市ながらモラヴィアのクロメルジーシュやオロモウツでも多くの作曲家・音楽家が活躍していました。

Heinrich Ignaz Franz von Biber / Sonata Tam Aris Quam Aulis Servientesより
ボヘミア生まれのビーバーはオロモウツの宮廷に仕えたあとザルツブルグの宮廷に移って活躍した作曲家です。自身天才的なヴァイオリニストでロザリオのソナタなど技巧的なヴァイオリン曲をたくさん残しています。この「祭壇または宮廷用ソナタ」と題された室内楽曲集は全部で12曲からなりますが、うち5曲がトランペットを含む作品です(4曲目と10曲目はトランペットソロ、1曲目7曲目12曲目はトランペット2本)。
10曲目は自然倍音しか出ないトランペットの曲には珍しくシのフラットを上手に多用した短調の曲で、これはビーバーに限らず他のモラヴィアの作曲家の特徴でもあります。

Heinrich Ignaz Franz von Biber / Sonata a7
                Sonata St. Polycarpi a9

2曲ともトランペットアンサンブルの曲です。a7の方はトランペット6本とティンパニという編成ですが、すべてのパートに交替でハイCが出てくるなど、当時の宮廷がいかに贅沢にラッパ奏者を揃えていたかが伺える曲です。

Johann Heinrich Schmelzer / Sonata a5 from Sacro-profanus concentus
モラヴィアのクロメルジーシュのヴァイオリニストであったシュメルツァーはビーバーの師でもあります。ヴァイオリンの他にコルネットも演奏したようで、シュメルツァーの曲の中にはコルネットを含むアンサンブル曲がいくつかあります。この5声のソナタはトランペット、ファゴット、2本のヴァイオリン、ヴィオラという編成で中間部に出てくるトランペットソロは超難関です。

Johann Heinrich Schmelzer / Aria per il Balletto a Cavallo
1667年1月にウィーンでレオポルド1世とスペイン皇帝フェリペ4世の娘マルガレット・テレサの結婚式が贅を尽くして盛大に執り行われました。祝宴はリハーサルも含めて何回か行われた訳ですが、その宴席で演奏された曲の中にこのトランペット5本を含むシュメルツァーのファンファーレ集がありました。おそらく素晴らしく手入れされた馬に乗ったトランペット隊が整然と並び、片手にハプスブルグ家の紋章の入った旗を垂らした楽器を持って華やかな宴の始まりを告げたのに違いありません。

Pavel Josef Vejvanovsky / Sonata a4
ヴェイヴァノフスキーはオロモウツとクロメルジーシュで宮廷楽長を務めたトランペット奏者で、トランペットを含む曲をたくさん書き残していますが、それらは間違いなく彼自身が演奏したと推測されています。この4声のソナタはビーバーのソナタで触れたのと同じく短調の曲でラッパの曲にしてはしみじみとした哀愁がただよっています(でも難しいことに変わりはありません)。

Romanus Weichlein / 24 Duets
リンツ生まれのヴァイヒラインはやはりヴァイオリニストでビーバーの影響を受けています。このデュエット集は1695年出版の12曲からなるソナタ集 Encaenia Musices の中の最後におまけのようについているものです。
デュエット集といえば先にも挙げたビーバーも12曲のトランペット2重奏曲集があってこれもお勧めです。

その他の作曲家
オーストリアでは時代が下って大モーツアルトの父の世代にあたる後期バロック時代(ロココ時代)にとんでもなく上手な(というかハイノートの得意な)トランペット奏者がいたようで、Michael Haydn やGeorg Reutter II などのコンチェルトはとてつもない高層圏での闘いを強いられます。なにしろかのブランデンブルク協奏曲第2番よりも高い音が頻発します。ラッパ吹きとしての体を大事にするならこれらの曲に手を出すのはあまりお勧めしません。

Leopold Mozart / Concerto in D
そのモーツアルトの父、レオポルドの書いたトランペットコンチェルトです。何と言っても1楽章が吹いていて気持ちいいですね。 ドーー l ドレドレミファミファ l ソ、ラ、シ、ド l シーラシラシラシラソーー、と階名を書いても判らないか、まあ、早い話が真ん中のドからの上昇音形なわけで、上手いこと装飾付けているなーって感じです。たびたび出てくるハイDが聴かせどころですね。綺麗な音で吹きたい曲。

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