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2008/11/07

マドゥーフ氏へのインタヴュー(その4)

【指導法について思うこと】

教育者として(バルブトランペットの指導は15才のときから始めた)、私は今まで述べてきたような原則に基づきナチュラルトランペットへの独自の取り組み方を工夫してきた。
ナチュラルはリヨンでもう14年教えている(注:インタヴューの時点は2005年)。最初の数年は試行錯誤しながらだった。同僚や学生達それに学校自体も私のやりたいようにやらせてくれた。初めはなかなか上達に結びつかず、いくつかの試みはうまく実を結ばなかったこともあった。が、同時に私の演奏スキルと教える技術が上達したこともあって、結果として今では学生が基本的なことを学ぶのに短期間ですむようになってきた。

バロックトランペットを孔なしで演奏したいと思う人は、まず良いアンブシュアを持っていることと呼吸法に問題がないことが必須の要件である。

どのような教則本を使うのが良いか?
私はいろんな教則本を柔軟に使い分けている。デュベルネ、それにシュロスベルグ、スタンプやコリンなど。これらは正しい息圧や安定したアンブシュア、どうやって自分の体を共鳴させるかなどを練習するのに役立つ。それに加えて自分なりの話す練習や歌う練習法も加味している。

次にタール教授の教則本にある音程の練習もたくさんこなす。これを自分が開発した第7,11,13,14倍音などの難しい音をとる特別な練習法と組み合わせて使用している。

その後に曲を歌うように演奏するためのアーティキュレーションの練習を行う。ファンティーニやクヴァンツ、アルテンブルグなどの作品が適しているがフランスの狩りのホルンの曲や民謡、ジャズの技法なども取り入れている。

自分が思うに、同じような材料を使っていろんな先生がバロックトランペットを教えているとは思うが、補正孔を使いながらの指導では全く違った結果が得られると思う。それも自分がナチュラルトランペット用の練習法を独自に開発した理由でもある。

【FAQ(よくきかれる質問)】

1)バロックトランペットを始めるには孔があった方がいいですか、それともない方がいいですか?

孔付きの楽器を使った方が早く難しいレパートリーを演奏することが可能だ。だけれども、その場合アーティキュレーションはモダン楽器で演奏するのに近くなる傾向がある。私に言わせると、ピリオド楽器を使いながらなぜあえてピッコロトランペットのような音をめざすのですか?ということになる。

私の意見は従って、孔なし(もしくは第11,13倍音補正のための孔1つ)の楽器がこの楽器を始めるのにベストな選択だと思う。たとえ将来的に3つ孔や4つ孔の楽器で演奏するつもりであっても、こうすることでモダンのアーティキュレーションと息圧の習慣を断ち切ることができるからだ。そしてその後に孔付きの楽器でフィンガリングの練習を1ヶ月かそこらやれば充分だし、またより確実な演奏をすることが可能になる。

もしバロックトランペットを最初に孔なしの楽器で始めたとしたら、演奏のしかたは随分異なってくると思う。というのもそうすればバロックトランペットは決して現代の楽器の祖先(しかも不自由な)ととらえることもなくなってそれそのものの良さが分かるだろうし、その練習で得られるメリットを活かすことができるからだ。

2)孔付きの楽器と孔なしの楽器を両方演奏することは可能ですか?

私はこの質問に答える資格はない、なぜなら前にも述べた通り同時に両方の楽器を練習していた期間はすごく短かったからだ。ただ、バーゼルとリヨンの私の生徒達はたいていどちらのシステムも演奏しているし、それで問題があるようには見えない。

3)3つ孔と4つ孔、どちらのほうが良いシステムだと思いますか?

ご想像がつくとは思うが、個人的にはありのままの楽器が一番と思っている。しかしどちらかのシステムを選ばなければならないとしたら4つ孔の楽器の方がいいだろう。理由は、1つ、2番ヤードを差し替えることでいつでも孔なしの楽器にすることができる。2つ、オリジナルの楽器の形状と同じである。3つ、スライドをつけることが可能である。4つ、2重のクルークをつける(3つ孔)よりも音程の妥協が少なくてすむ。5つ、4つ孔の方が第13倍音をより正しくかつ確実に補正する可能性が高い。

4)どちらも同じマウスピースで吹くことは可能ですか?

もしピリオド楽器にモダンのマウスピースをつけて演奏すればモダンの音に近い響きがするだろう。なぜ大きいマウスピースを使って気品のある音をめざそうとしないのか。私の回りの人たちも孔付きの楽器に歴史的なマウスピースをつけて演奏した方が音はいいと言っている。そのほうが音が他の楽器とブレンドするし音質も派手ではなくなるからだ。

5)歴史的なマウスピースとモダンのマウスピースを使い分けすることは可能ですか?

私がモダンの楽器を教えたりモダンのオケで演奏していた頃は数年間も毎日そうやっていたが全く問題はなかった。私の生徒にもオーケストラ奏者がいて同様のことをしている。
多分人によって両方のマウスピースも吹き分けるのに支障が出てくるんだと思う、それは例えばクラリネット奏者が人によって(短いのから長いのまで)クラリネット族の楽器を吹くのに問題があったり、オーボエ奏者が人によってはイングリッシュホルンと持ち替えるのに問題があったりするのと同様だ。つまるところ、何を練習するかで何ができるかが決まると思う。

6)ナチュラルトランペットで仕事を見つけることはできますか?

可能だ。私を含めてフランスには何年も孔なしでやってて仕事をするのに何の問題もないプレーヤーたちがいる。これは指揮者の問題でもない。出てくる音が音楽的かつ確実であれば彼ら(指揮者)は満足するからだ。たいていの場合、問題はむしろ怠けていて挑戦しないトランペット奏者自身にある。

例えば古典派のレパートリーは孔なしの楽器で演奏した方がずっといい結果が得られるのは否定出来ない事実だ。音程はましだし、音質はより気品があり、かつ作曲家の意図により近い。しかしながら、孔付きで演奏している奏者たちはこのことに気がついていないか、あるいは理解しようとしていない。難しいバロックのレパートリーに比べれば古典派の曲はリスクが少ないし、孔なしの楽器を使ってみるには最適の分野だというのに。

結論として私は孔なしの楽器の演奏を学ぶことは多くの利点があると思っている。ナチュラルトランペットの奏者であれば必要になったときに3つあるいは4つ孔の楽器のフィンガリングの練習をしさえすればそれを演奏したり教えたりすることはできるけれど、普段孔つきの楽器で演奏している人にはナチュラルを演奏したり教えたりすることは不可能だ。

今後の10年間はナチュラルトランペットにとって、音楽マーケットの要請や熱狂的な過当競争の結果というよりはトランペット奏者自身の満足度の問題として盛んになっていくことを期待している。競争は、それがみんなが音楽によりよく奉仕しようという働きをする場合は結構なことだが、奏者達が流派の違いで分裂するネガティブな可能性もある。我々はただ単に市場に迎合する必要はないが、より作曲者の意図に誠実に応えようとすることで新しいアイデアを提供することはできるだろうし、それがひいては市場の好みを変えていくことにもなると思う。

ジャン=フランソワ・マドゥーフ

(以上この稿終わり)

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