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2012/09/10

ナチュラルトランペット吹きによる座談会(その5)

PP:僕はバロック音楽は時流に乗ってると思うんだ。多くの大オーケストラは行き詰まってきているし聴衆は他のものも欲しがってる。音大ではオーケストラの訓練は有益だってことになってるけど、早晩仕事の口もないことに授業を振り向けるべきじゃないと気がつくよ。代わりのものが必要なんだ。イギリスじゃ小さい町にもブラスバンドがあったけど、バロックアンサンブルやバロックオケがそうなるかもしれない。

FH:そうであって欲しいと思うね。

PP:オーストラリアやニュージーランドではそういう需要があるんだ。小さな村でも古楽器をやったりバロックアンサンブルのグループがあったりする。ある意味で代替物、そこじゃ大きなシンフォニーオケをやってくような金はないからね。

FI:小さな町には向いているのかもしれないね。僕は先月こんな経験をしたよ。ツアーでコペンハーゲンとプラハ、そしてパリを回ったんだ、おんなじプログラムでね。プラハは満席だった(しかも大ホール)、パリも完売、でもコペンではー大都市なのにー100人くらいしか入らなかった。アーノンクールが来てもせいぜい200人どまりかなって言ってた。デンマークは高等教育も進んだ国なのにね。古楽はぜんぜんなんだ。それからオーストラリアに飛んでシドニーのオペラハウスで演奏したんだけど、あんなでっかい会場なのにお客さんの入りは6、7割もあったんだ。小さい古楽アンサンブルでも人を引きつけるってことだね。場所によって人気のあるところがあるってこと。ドイツはまちまちだね。ミュンヘンじゃ古楽器を演奏する機会なんてほとんどない、ベルリンは中心地の一つ、ケルンもそう。だけどハンブルグは大きい町なんだけど全然比べ物にならない。多分人気のある場所に集中してそれから活動を大きくしていく方がやりやすいだろうね。

司会:奏者についてはどうでしょうか。ここ数年少なからずの交響楽団の奏者がもうやっていることに飽きてしまったと言っているのを聞きます。昔はマーラーのシンフォニーを演奏するのは特別な機会でしたけれども今やマーラーは飽きるほど取り上げられています。古楽の世界ではどうでしょう?

BB:僕らが飽きるとでも?

FH:飽きることはないね、全く!ナチュラルトランペットを吹くのに飽きることはないよ。

BB:ここではロ短調ミサをやるときに僕らにお声がかかる。で、ハイドンのシンフォニーのときはどっかからキーヴィを持った奏者を連れてきてそいつに吹かせるんだ。我々はやさしい曲じゃ出番がないんだ。もしロ短調だけを年に10回もやるようになったら飽きるかもしれないけどね。

FH:それでも退屈はしないと思うよ。

ET:僕もだ。

FH:あの曲は決して飽きない、いつもエキサイティングなんだ。メサイアはちょっと違うけどね。

司会:概してナチュラルトランペットのための新作というものは作曲されていないか、あってもわずかです。反面、まだ出版されていない作品もたくさんあるし、これから徐々に世の中に出てくると思います。ポール(プランケット)、あなたはさきほど今手がけている手書き譜のことを話していましたよね。これは何か新しいものや変わったものを探そうということなんでしょうか、それとも単にもっと多くの文献を探すということなんでしょうか。

ET:僕はもうそんなことをかれこれ25年もやってきたよ。でも自分の経験から言えることは、それらは売れないってことなんだ。いつもやっている同じ曲をやりたがる、教会でも、コンサートでも何であれ。ドイツだと素晴らしいカンタータをやる機会はあるけど、それでもマタイ受難曲やロ短調ミサをやったほうがもっとたくさんの人が聴きにくる。みんなは知っていて手あかのついた曲を聴きたがるんだ。ベートーヴェンの5番シンドロームみたいなもんだね。なので僕は自分が掘り出して世の中に紹介している曲たちがすごく価値があるんだとは声高に言わないことにしたんだ、多分。でも新しい曲を探しだす、これは面白いよ。僕にとってはバロックのトランペット音楽だろうが1780年頃に書かれた曲だろうが新曲は常に新鮮なんだ。発見することが僕らを動かしているんだけど、世の中の人たちは馴染みのあるものしか欲しがらないんだよね。

PP:バッハのクリスマスオラトリオやロ短調ミサみたいな名曲はやらないって連中を知っているよ。作品を探し当てて、初演かそれに近い曲ばかりやっているんだ。

FH:そんなことをやれるグループはそういないよ、だって客が来ないから。12月にメサイアを10回やってお金を貯めてから人が聴いたことのない曲を集めたプログラムを3回やるって感じじゃないかな。そうしなきゃできないよ。

BB:バレー団体がくるみ割りをやんなきゃいけないみたいにね。

FI:僕に言わせれば、全然知られてなくて出版もされていないけどすごく価値がある曲がまだたくさんあって、かたや世に出されたものの中には印刷される価値のなかったものもたくさんあるんだと思うよ。ケルンにいい友人がいるんだけど、トレルリのコンチェルト全曲やりたいって彼が言いだしてきたときには思わず言ったよ「なぜ?!」40曲くらいある作品のうち、いくつかはやってみる価値あるけど、でも全部じゃないだろう。それから、昨日誰かが言ってたけど(といいながら暗にタールの方を指す)、我々はピリオド楽器の後半の時期(訳者注:19世紀あたりということか)をもっとやるべきだろうね。この「ピリオド楽器」っていう米語は僕らがドイツ語でいう「オリジナル楽器」よりもずっといいね。もちろんモーツァルトのシンフォニーやミサやレクイエムをモダンの弦の中でラッパだけ古い楽器を使って吹くことは可能だし、モダンでやるよりずっといい響きがする。もしモダンオケからレクイエムを頼まれたなら行ってナチュラルで吹くことだね、その方がいいから。だけど、シューマンやシューベルト、メンデルスゾーン、ブラームス、ワーグナーなんかはどうだろう。実は2年前にいいコンサートがあって、それはワーグナーの序曲、シューマンのピアノコンチェルト、そしてメンデルスゾーンの真夏の夜の夢をピリオド楽器でやるっていうものだった。ワーグナーはそれが初演されたときの人数、51人でやったんだ。僕はワーグナーをやるのはそれが初めてだったけど、あれは素敵な音楽だね!僕らはナチュラルとバルブを持ち替えて演奏した。最初の練習の時に楽譜に書かれているようにフォルテッシモで演奏したんだ、すると指揮者から言われたよ。ワーグナーの手紙があってね、それには最初のコンサートの後に彼は全部のダイナミックスを書き換えなくちゃいけなかった、なにせあまりに音が大きすぎたから、と書いてあるそうだ。練習とコンサートが終わった後に誰かが言ってたよ、これだとオペラ全曲をモーツァルト歌手でできるねって。シルヴィア・マクネアー(ドイツのリリックソプラノ)にゼンタをやってもらえる。いわゆるワーグナー歌手はいらないし、バロックやクラシカルの弦楽器が使えるんだ。イギリスじゃこういう試みがもう始まってるみたいだけどね。でもほんとワーグナーの楽劇全部をピリオド楽器の小さいオケでやるっていうのはやってみる価値があると思うよ。バイロイトはもともと小さなオケを想定して造られたんだ。それで後からもっとオケピットに人をいれなくちゃというので何度も改装されてきたんだよ。同じことがトランペットのソロの曲についても言える。古典派やロマン派のレパートリーですら全く新しい音楽になるんだ。弦楽器がビブラートをかけるようになったのは1900年頃のクライスラーの発明だってことは知ってるよね。それまではああいうスタイルのビブラートはなかった。僕は昔チェロをやってたことあるけど、僕の先生はスチール弦じゃなくてガット弦使ってたしなあ、それは50年代とか60年代の話だよ、100年前とかの話じゃなくてさ。

FH:それがシンフォニーオーケストラで将来的に融合するって方向はあるかもしれないね。もしストラヴィンスキー以降の音楽に100人必要だとしたら、オケは130人くらい雇うんだ。その中にはバロックや古典派だけを専門に演奏するメンバーもいて、何人かはクロスオーバーしていて、それから現代楽器だけやるのもいる。もしこんなふうになったらモダンのオケでも古楽のビジネスを共有することができるよね。

BB:何年か前に君が今言ったようなことを書いた記事があったよ。要するに、モダンのオケはバロックのレパートリーを失ってしまったと。やれば笑われるだけだもんね。そして今や古典派のレパートリーも失いつつある。近い将来は、その記事によると、オケがバロックや古典はピリオド楽器の奏者で、ストラヴィンスキーなんかの現代ものをやるときはモダン楽器の奏者で、っていうふうにやんなきゃいけなくなるともっとたくさん雇わなくちゃいけないだろうってさ。

司会:あるいはそのどちらも出来る奏者を見つけてくるかですね。シカゴ交響楽団にはモダンもピリオド楽器もどちらも演奏できる奏者が何人かいますね。

FH:まあ、でもまだ始まってはいないね。そんな兆しも見えないし。

BB:そんな成り行きにはさせたくもないだろうしね。

FI:最近ベルリンフィルのメンバーがバロック音楽をピリオド楽器でやったコンサートがあったって聞いたよ。信じられないよね。あのカリスマ老人が死んでからベルリンフィルは本当に変わったよ。コンサートマスターの一人は腕のいいバロックバイオリン弾きだしね。今やそんなこともできる時代になったんだ。

PP:もちろんビブラートなしでね。。

(この稿終わり)

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