ナチュラルトランペット吹きによる座談会(その3)
司会:これだけいろいろ良い楽器を選べるようになったことは演奏に影響していますか?補正孔のあるなしについていろいろ議論してはいるものの、結局皆さん孔付きの楽器を演奏しているのはやはり音をはずすと次は雇ってくれないからというのもあるのではないでしょうか。これは正しいか間違ってるかとかいい悪いの問題ではないように思うのですが。
ET:補正孔はオットー・スタインコップがその偉大なアイデアを開発した時代にはある問題解決の必要に迫られてのことだったんだ。だからこそウォルター・ホリーがそれを使って演奏を開始し、今我々がバロックトランペットを手にしているというわけだ。もし今また別の勇気ある奴が勇敢にも本当はこうだったんだって別のことにチャレンジするならそれはそれでいいことだし、それもまたそういう必要があるからだと思う。つまりそこにモラルの問題とかはないよ。
FI:ある古参のリコーダー奏者、いわゆる第一次世代に属する人ね、その人が言ってたけど、彼が30年前にブランデンブルグの4番を演奏し始めた頃はそれを吹けるやつはそんなにいなかった。だけど、今や音楽学校の入試に使われるくらいだって。ナチュラルトランペットにも同じことが言えると思うね。僕が始めたときは、先生はウォルター・ホリーだったけど、彼がホントにナチュラルトランペットを吹き始めた最初の人だったからね。3年くらいたまに一緒に仕事をしたけど、一緒にナチュラルを吹いたのは一回きりだったよ。彼の演奏スタイルにいつも賛成するってわけでもなかった。トランペットの歴史については素晴らしい講義をしてくれたけどバロックトランペットの演奏については話し合ったことはなかった。これは今の学生も同じじゃないかな。彼らは良くなってるよ。次の世代は我々よりも良くなるだろう。ナチュラルトランペットは古い楽器だけど、まだすごく若い楽器でもある。だって最初の人が吹いたのはたったの35年とか40年前なんだよ。現代においてはまだ始まったばかりだ。奏者はだんだん良くなってきている、だからここにこれだけ人がいるわけなんだけどね。これからまだまだ増える。我々はドイツでは教会音楽という伝統がある。最初にロ短調ミサをやったのは17,18年くらい前かなあ、とにかくそれは特別なことだった。それを吹ける人も少なかったし。。
ET:僕にとっても特別だったよ。
FI:多分今は教会で演奏されるオラトリオの半分はピリオド楽器によるものだと思う、ケルンでも他のドイツの都市でも。それはピリオド楽器の奏者が増えたこともあるし初期のころよりも演奏水準も上がったからなんだ。
ET:で、ギャラは安くなってる!(一同大きく賛同)
FI:普通になったってことだね、もう特別なことじゃないんだ。
司会:ここアメリカではまだ状況はそこまでいってないように思います。フレッドとバリーが一緒に始めたのが最初で以来あまり新しい人が出てきていません。アメリカだとこの楽器をやる人はちょっと変わっていると思われるようで。
BB:あるいは狂っているとかね
FH:ほんとヨーロッパみたいに一般的じゃないよね。
ET:なるほど。でも10年前だったら我々も変わり者と思われてたよ。バーゼルのスコラで同じ屋根の下にあっても、スコラと音大とはまったく交流はなかったもんね。でもこの数年で変わってきたんだ。(コンフォルツィにむかって)君がスコラで勉強してた時だれが音大の学生を知っていたかい?
IC:いいえ。僕が孔なしの楽器を始めた頃には無茶だと思われていました。80年から85年の間のころです。孔なしの楽器を練習していると、よく「なさけない演奏だなあ、全然吹けてないじゃないか」と人に言われたものです。モダンの側からの知り合いというのはほとんどいませんでしたね。
司会:イタリアの現状はどうですか?私たちはあなたとガブリエル・カッソーネのことは知っているけれど。今では他に多くのナチュラル奏者が出てきていますか?
IC:ええ、ほかにもいます。でも問題はサポートがないことなんですよ。オリジナル楽器を演奏する機会もないし、オーケストラもないし。
ET:、、つまり充分な仕事がないと、、
IC:サポートが全くないんです。いろんな提案をしてみました。でも答えはいつも一緒で「うん、なかなか面白いアイデアだね、でも予算がないんだよ」と言われてしまう。これを4、5回も繰り返したらいくらなんでもやる気を失ってしまいます。
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