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2012/09/09

ナチュラルトランペット吹きによる座談会(その4)

BB:ここ(アメリカ)では小さいグループで始めることが多いね。教会とかでピリオド楽器を演奏してくれっていう依頼があるけど、でも彼らが聞き覚えのあるのはイギリスの録音だから、そういった音を期待しているよね。完璧じゃないのはいやなんだ。ある夕食会のとき、そういった類いの指揮者が僕に訊いてきたことがあったよ。「ちっちゃいトランペットで演奏するっていうのはありかなあ?つまりピリオド楽器と一緒に演奏出来るかということなんだけど」彼らは実際ニューヨークでそれをやっていたね。モダン楽器奏者を雇ってピッコロトランペットで半音下げて吹かせてたんだ。そんなことよくあるよ。

ET:それが聴きたかったものだったってこと?

BB:そう、その音が欲しかったんだろうさ。

FI:ドイツはバロック音楽をやったりピリオド楽器をやるにはいい場所なんだけど、それでも古楽の盛んなケルンですら学ぶところはないんだ。音楽大学にナチュラルトランペットの授業はない。僕はそこで11年間教えているけど正式にはモダン楽器の教師ということになってる。ベルギーの子でナチュラルトランペットを勉強したいって生徒がいたんだけどケルンじゃ教えられないんだ。

BB:ここでも勉強出来ないのは同じだよ。

FH:今日午前の部にモダン楽器とピリオド楽器っていう議論があったよね。ニューイングランド音楽院じゃ、もしナチュラルトランペットを勉強したかったら副科としてとるしかないんだ。他の楽器がメインでね。

BB:例えばフルートとトランペットとかみたいな。。

FH:そう。例えば2人くらいの生徒がここでバロックトランペットを専攻できますか?と聞くとするだろ。すると学校の返答はイエス、「でも別途費用が何千ドルかかかりますよ」。「じゃあやめた」ってことになっちゃう。実は僕も二人生徒を教えてたことがあって、彼らはチャーリー・シュレーターと半々に習ってたけど、そんな生徒は多くないね。

ET:それは知らなかったな。そんな状況を変えるには何ができるだろうか?

BB:一人のプレーヤーがあちこちで教えているわけじゃないよね。僕が始めたのは84年だったけど、そのときに古楽科があったのはニューイングランドだけだった。僕の先生だったレイ・メイズがロ短調ミサを一緒にレコーディングしたっていうので僕はフレッド(ホルムグレン)のことを知ってたんだ。僕はニューイングランドに電話して、そちらに入学してトランペットをフレッドから学びたいんだけどと言った。彼らはフレッドを雇うことになったんだけど、それでも僕についてはどう取り扱ったら良いのか分かってなかったな。

FI:そこが問題なんだよな。先週もニューヨークで演奏してたんだけど、ニューヨークとボストンの間にある音楽学校の先生(トランペットではなかった)が訪ねてきてこう訊くんだ。今2人学生がいてもう2人増えるんだけれど彼らがナチュラルトランペットを勉強したいと言っている、で、どの楽器を買うべきだろうかと。だから僕は大事なのは楽器を選ぶことじゃなくて先生を探すことでしょって答えたんだ。だって僕が気に入る楽器をその先生が気に入らなかったら意味ないし。。すると彼はびっくりして「先生を探すですって?!」。でもこれはドイツでも全くおんなじで、だから僕がアムステルダムで教えているってわけなんだけどね。

BB:この国じゃ僕らのような者が教える仕事につくのは無理なんだ、っていうのも僕らをただ単にナチュラルトランペットを教えられるだけっていうふうに考えて後回しにされるし、そもそも興味がないんだな。それでその代わりに吹けないけどどっかのDMA(音楽博士)を持ったやつを雇うんだ。

FH:博士って肩書きはここじゃすごい重要なんだ。持ってなかった日には。。

BB:履歴書は後回しにされる。。

FH:いや、見もしないと思うよ。何をやったかは関係なくて去年どんな紙(賞状)をとったかが大事なんだ、どこからもらったかは関係なくね。負け惜しみみたいに聞こえるだろうけど、それはこの国の教育システムがどうなっているか本当に知らないからなんだ。つまり、何が起こっているかというと、教育現場にとっては、もうすでに実績のある人がある意味で恐いんだね、彼らの立場を脅かす存在だから。

ET:それは時間の問題だと思うよ。なぜなら古楽でどんどん仕事が増えてきたらマーケットの要請で音楽教育システムにも人を育てなきゃというニーズがでてくるから。

BB:学生がモダン楽器で仕事をする場が尽きてきたら何か代わりのことをやらなくちゃいけなくなるかもね。

ET:それはイギリスで起こっていることだよ。連中はどんな楽器でも吹けるように教育している、っていうのもそういう仕事があるからっていう理由でね。

司会:でもここには仕事があるとは思えないですね。

FH:仕事はむしろ減っているね。10年前とか、いや7、8年前とかはニューヨークで2ヶ月分の仕事があって、、シカゴで2つバンドが、、でスミソニアンでも、、っていう感じで仕事があったけど、今やすっかりなくなってる。40才以下の世代でコンサートに通う人は減っちゃったし、音大へ進んで昔の楽器を学んでやろうという生徒も減ったね。

ET:それは前にも聞いたな。誰かがいってたよ、客席を見渡せば白髪ばっかりだって。

FH:それにはいろんな理由があるけど全部長期的なものだよ。こういう現状をみて直そうと思っても学校教育までさかのぼって何が大事だと教えられているか見なくちゃ。芸術が大事だって思われなきゃ誰もサポートしないよ。

ET:それは今この現代ばかげている議論だと思うね。だってすでに人間の発達には右脳と左脳のどちらも必要で論理的思考には芸術的サイドからの働きかけが役立つってことが分かっているんだから。

FH:こういう音楽に対する助成金を担当する政府のやつらが分かってないんだよなあ。

PP:間違ってるかもしれないけど、バロックトランペットのレッスンに別に支払わなきゃいけないのは逆に有利なことなんじゃないの?だって仕事の口をつくっているんだし。ナチュラルトランペットをトランペット学習の一部とはとらえてないんだよね。だからそのうち「これからバロックトランペット演奏に真面目に取り組むから講座を一つ作らないと」ってことになるかもね。

BB:そんなことにはならないね。連中は誰かバロックトランペットを持っててファンティーニのソナタの半分しかまともに吹けないようなやつを雇うだろうさ。ここはそういう国なんだ、ナチュラルトランペット奏者は雇われない。

PP:でもラッパ吹きはどんどん利口になっていってるよ。学生がきて「ここのアーティキュレーションはどうやるんですか?」とか「ここのトリルはどうかけるのがいいんでしょうか?」とか訊いてくるようになれば誰か専門家が教えるしかないでしょう。それは古楽科の担当であってトランペット科じゃ手に負えない。

FH:それは一理あるし、そうあって欲しいと僕も思うけど、でもここはそうじゃないんだ。

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