「これしかないvol.4」講演内容(その4)
(承前)
♫ 赤クレヨンは改良か改悪か ♫
さて、それではフンメルの曲を楽章を追いながら順に詳しく見て行くことにしましょう。
これはフンメルの自筆譜のコピーです。自筆譜は現在ロンドンの大英博物館に保管されています。これはコンチェルトの冒頭の部分ですが、まず最初に気づくことは「とっても綺麗で読みやすい!」ってことですね。ハイドンの自筆譜と比較してみましょうか
フンメルのが比べ物にならないくらい綺麗ですよね。年の違いもあるのかもしれませんが、フンメルがとても几帳面な性格だったということがわかります。
それからもう一つ気がつくのはところどころ色違いのインクで書かれているということです。スコアの全体は薄い茶色のインクですが、上と下に書かれている文字は濃い黒のインクです。つまり上のタイトルのところをみると、茶色でConcertoとあって、その後に黒のインクで a Tromba principale とあります。また下の部分には作曲家フンメルについてのコメントが記載されています。Giov. Nep. Hummel di Vienna, Maestro di Concerto di S. Altezza il principe regnante di Esterhazy. つまりウィーンのフンメルはエステルハージ公の音楽長である、と宣言していますので、これは音楽長になった1804年4月以降、すなわち初演後に書き込まれた可能性が高そうです。
このページでは下から2段目がトランペットソロのパートですが、ご覧の通り、オーケストラのパートは茶色のインクで書かれているのに対してソロのパートは黒の濃いインクが使われています。表紙の追加コメントと同様に後から清書された可能性が高そうですね。
インクの色ということで言えばこの初稿譜にはさらに別の書き込みがあります。
この部分、ソロのパートに赤いクレヨンで書き足されたところが見えますでしょうか。
それからこちらの部分ではソロパートのラインではなく通奏低音の五線のところにソロパートの別バージョンの書き込みがあります。
つまりソロの譜面が黒インクで書かれたあとに赤クレヨンで代替案が書き込まれたところがあるのです。場所によっては黒の鉛筆が使われている場合もあります。こうした書き込みは1楽章だけでも十数カ所あります。それではどのように変えたのか、これは聴いていただくのがてっとり早いと思いますので、改訂場所だけ比較したものを聴いてみて下さい。全部をご紹介するのは割愛して、ここでは中からいくつか比較したものを聴いていただきます。最初にオリジナルバージョンでの演奏、続いて改訂バージョンでの演奏です。
どうでしょう、我々が元の音形に慣れているということもあるのかもしれませんが、率直に言わせてもらうと必ずしも良くなったとは言えず、どちらかと言えば改悪された感があります。ただ概して言えるのはオリジナルバージョンよりはやや易しいフレーズになっているということでしょうか。フンメルが改訂したとは思い難いのでおそらくワイディンガーの指示によるのでしょう。そうだとするとワイディンガーはちょっとセンスがなかったということになりますね。
(その5に続く)
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