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2016/07/28

J.S.バッハのコルネットの使用法(まとめ)

J.S.バッハのカンタータにおけるコルネット(ツィンク)の使用法についてまとめてみた。

 

(あらかじめ告白しておくと、調べ始めたときは何か面白い発見でもあるかなと期待していたのだが、結果は単に事実関係をまとめただけに終わっているので内容はあまりないかも)

 

さて、バッハのカンタータでコルネットが使用されたと思われる曲は全部で13曲ある。これはスコアまたはパート譜にコルネットと明記されているものの他、楽譜にはトロンボーンと記載されてはいるものの、音域などからコルネットが充てられただろうと推測されるものを含んでいる。
この13曲を初演日(またはコルネットが追加されたのが再演時であればその日)の順に並べたのが次のリストである。

 

順番 BWV    曲番        年月日          金管の編成  ピッチ    備考
        21        9          1723/6/13       Tb3              C    初演は14/6/17
  1      25       1, 6       1723/8/29      Cor1, Tb3     K    Tbの譜面はC
  2      60       1, 5       1723/11/7      Cor1             C    Cornoと記載
  3      64       1, 2, 4   1723/12/27   Cor1, Tb3     K
  4      23        4          1724/2/20      Cor1, Tb3    C    初演は23/2/7
  5       4       2, 3, 8   1724/4/9       Cor1, Tb3     C    初演は07/4/24?
  6       2       1, 6       1724/6/18      Tb4              C
  7    135      1, 6       1724/6/25      Cor1, Tb1     C    Tb1はBass Trb
  8    101      1, 7       1724/8/13      Cor1, Tb3     K
  9     38       1, 6       1724/10/29    Tb4               C
10    121      1, 6       1724/12/26    Cor1, Tb3     C
11    133      1, 6       1724/12/27    Cor1             C
12     28       2, 6       1725/12/30    Cor1, Tb3     C
13    118                    1736頃        Corno2, Cor1, Tb3   C

 

注)ピッチの欄のCはChorton、KはKammertonの略。
  Chorton (a=466) は Kammerton (a=415) よりも全音高い。
  弦楽器はKammertonなのでChortonの譜面は他のパート譜に比べると全音低く記譜される。
  なお、当時のコルネットは大きく分けてa=466の楽器とa=440の楽器が併存していたが、どちらかというと466の楽器の方が多かった。従って演奏に使用するにはChortonで記譜されていたほうが実用的であった。また、トロンボーンの場合アルトトロンボーンはa=440だとEs管だがa=466だとD管、テナートロンボーンはa=440だとB管だがa=466だとA管ということになる。これもそれぞれD管、A管とみなせばChortonが有利となる。
  BWV60に関しては、パート譜にCorno(ホルン)と記載されているが、音域がソプラノパートであること、Chortonで記譜されていること
(ホルンはChortonの楽器ではないので)からCornettoの誤記と思われる(E.H.Tarr教授の説)。なお、BWV21はトロンボーン3本でコルネットは含まないが期日が近いので参考までにリストに加えてある。

 

さて、上記のリストから判明することを列挙してみよう。

 

1. 期間が短い。最後の二つBWV28とBWV118を除くと1723年6月から1724年12月の1年半である。バッハはミュールハウゼン、ケーテン時代を含めると1707年からカンタータを作曲しているし、ライプチヒでも1740年代中盤まで作曲を続けている。この30数年間という長い期間中のたった1年半にほとんどが集中している、というかそれ以後は使っていないのは極めて特徴的である。

 

2. 起用法について。コルネットとトロンボーンが使われている曲は全てコラールの曲であり、合唱の補強を目的として使われている。これはトランペットがアリアやコラール以外の合唱曲に独立した旋律楽器として使われているのと全く違う使用法である。

 

3. 同一の曲ながらあとから追加された例がある。BWV4, BWV21, BWV23は初演作曲時には金管楽器を想定していなかったが1723年6月以降に再演したときにはこれらのパートが追加されている。

 

なんだか当たり前すぎて結論と言うのもおこがましいが、以上のことから推察されるのは以下のようなことであろう。

 

・なぜ1723年6月からなのか?
バッハが1723年の5月にライプチヒのトーマス教会カントルに赴任したとき、トーマス教会の合唱団は非力であった。音程すらろくにとれない状態だったとの記事もある。これを補強する目的で加えられたのでちょうどこの時期からだと考えられる。BWV23が判りやすい例だ。この曲は当初1723年2月にトーマスカントルの採用試験用に提出した曲であり、そのときは金管無しだったのだが、1年後の再演時に加えられているのはカントルとしてのバッハの判断だったのだろう。

 

・なぜ1725年12月までなのか?
バッハがライプチヒの楽団および合唱団の充実度について、ずっと不平を言っていたのは有名な話であるが、さすがに着任1年半も経つと不満足ではあってもそれなりのレベルに達してきたので合唱団の補強は不要になってきたのだろう。従って1725年以降のカンタータにはコルネット/トロンボーン隊が用いられていない(BWV118は例外)。これはもともと第3年巻(1725年)の曲が少ないこととは関係なさそうだ。

 

・誰が吹いたのか?
合唱団の四声部(ソプラノ、アルト、テナー、バス)のすべてを補強するには、コルネット、アルトトロンボーン、テナートロンボーン、バストロンボーンの4本を充てるのが音域、音色的にも最適だったし、実際そのように使われている。奏者にはライプチヒの都市楽師たちがエキストラ的に加わったのであろう。そのうちの一人はトランペットの名手であったゴッドフリート・ライヒェ(コルネット掛け持ち)だった(ライヒェの在籍期間は1719-1734)。
なお、1723年5月のトーマスカントル着任直後のカンタータはBWV75とBWV76で、どちらもトランペット1本が活躍する曲であり、これは恐らくライヒェが吹いたはず。その翌月のBWV21は譜面上トロンボーン3本であり、これは楽譜通りコルネットは入っていなかった可能性が高い。ライヒェのコルネット奏者としての起用は8月に補強が4声部になった時点(BWV25)からではなかろうか(この点は推量の域をでないが)。

 

・なぜコラール限定の使用法だったのか?
バッハは、その使用法からみて、他の楽器とは異なって、コルネットやトロンボーンをソロ楽器としては全く認めてなかったようだ。必要なときにちょっと助けを借りたけど不要になったら見向きもしなかった。それは当時の奏者の腕にもかかわっていることなのかもしれない。これは1700年頃にはヨーロッパの主要都市でコルネットが時代遅れの遺物とみなされていた状況では仕方のないことだろう。

 

 

参考資料:CarusのBach for Brass vol.1、vol.2
     バッハの教会カンタータを聞く HP  ほか

 

 

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