CDその228 Handel / Messiah (Dolci)
カテゴリ: English Music
タイトル: Handel / Messiah
演奏団体: Daniela Dolci / Musica Fiorita
Trumpet: Jean-François Madeuf
Henry Moderlak
共 演 : Raitis Grigalis (Baritone)
収録曲目: Glory to God
Hallelujah!
The trumpet shall sound
Worthy is the Lamb...Amen
録音年月: 2015.10, Binningen
レーベル: Pan Classics PC10351
コメント:メサイアの決定盤が出た!(誤解のないように付記すると、決定盤というのはあくまでもトランペットの演奏に限ってのことであるが、ソリスト合唱オケ含めトータルの演奏も素晴らしい)。
まず第一に声を大にして言いたいのはその音色の素晴らしさ!艶と張りと輝かしさがあり、すごい存在感なんだけれども、決して合唱やソリストの邪魔になっていない。これは管の長いナチュラルトランペットの利点だけれど、使用しているマウスピースの選び方や補正孔に頼らない完全ナチュラルの演奏であることも大きく寄与している。それから次に歌うようなフレージングとアーティキュレーションの適切さ。さらにメリハリの良さ、これは特に2ndトランペットにも言える。その音が欲しいところで、それだけ出しても大丈夫なんだということの実例を見せてもらった感じ。そして最後に趣味の良い装飾音などから伺えるようにトータルに洗練された演奏スタイル。もう、これ以上の演奏はないんじゃないかと個人的には惚れ込んでしまった。
ちょっと演奏について細かいことを。
年末恒例になったバッハ・コレギウム・ジャパンのメサイア公演を聴きに行かれている日本のリスナーはすでに体験ずみということになるが、例えば第3部のトランペット•シャル・サウンドのバリトンのアリアでのマドゥフ氏の演奏は基本的にBCJでの演奏と同じだ。しかし、この曲については他のCDなどと異なった解釈をしている部分があるのでそれについて補足しておきたい(これはマドゥフ氏からレッスンで直接教わったことなので単なる推測ではないことを断っておこう)。
まず第一に、アリア冒頭のリズムの扱い。多くの演奏ではバロックの演奏の慣習から四分音符(正確には八分休符)を複付点にして次の八分音符を十六分音符にする演奏が多いのだが、氏はここを楽譜通りのリズムで演奏している。理由は、もともとこのフレーズがイギリスの裁判所で使われていたもの(裁判開廷の際にトランペットがファンファーレを吹いたらしい)であって、このフレーズを聞くとイギリスの(当時の)聴衆は、これから裁きが始まる、という厳粛な空気になったという。従って、これをバロック音楽の慣習だから複付点にするという理由で変更するのは間違っている(ついでに言うとそうすることで音楽自体も軽くなってしまうので)ということなのだそうだ。マドゥフ氏はフランス人だけれど、この説はクリスピアン・スティールパーキンス氏から聞いた、と言っていた(それにしてはスティールパーキンス氏の演奏が複付点になっているのはなぜ、と思ったりもするのだが)。
次に第二点だが、アリア20小節目から25小節目くらいにかけて、トランペットと弦楽器が同じフレーズの掛け合いを繰り返すところがあるが(同じパターンは曲の後半にも出てくる)、よくある演奏スタイルは、2度目の掛け合いをエコーとみなし、音量を落として演奏するというものだ。これをこの演奏では音量を落とすどころか、むしろクレッシェンド気味とし、繰り返すごとに徐々にフォルテからフォルテシモに持って行く。氏はこれはレトリック(修辞学)と関連がある、と説明していた。同じことの繰り返しは強調であって、エコーではない、ということだ。それはこの同じ曲の73小節目からの4小節を見てみると納得がいく。ここではヴァイオリンが同じフレーズを4回も繰り返すのだが、ほとんどの演奏では徐々にクレッシェンドする解釈が多い。
エコー効果は初期バロックのときにはとても好まれて使われたものだが、それを後期バロックまでそのまま援用するのは間違っている、ということなのかもしれない。
さて、説明が長くなってしまったが、この演奏はそうしたうんちくはともかく、ナチュラルだとか、孔を使ってないとか、そんなことも全く関係なく、とにかく素晴らしい演奏なので是非多くの人に聴いていただきたいCDなのだ。
お奨め度: 特選盤
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