ナチュラルトランペットをオケで使ってみよう!(その2)
2. 楽器について
まず、楽器の呼び方について混乱を避けるために、ナチュラルトランペットとバロックトランペットとは何かを明確にしておこう。
永らくバーゼル・スコラ・カントールムのトランペット科教授だったエドワード・タール氏の提唱している定義に従うと、ナチュラルトランペットとは、トランペットのもっとも原始的な形、すなわち真鍮でできた1本の長い管のみの楽器をさす。つまりバルブや指穴などによって音程を変化させる機能をもたない楽器のことだ。広義には古代エジプトから近代の軍隊で使われる信号ラッパまで含めることができるが、この稿では17世紀、18世紀に使われていたのと同じ楽器ということにしておこう。ナチュラルトランペットはバロック時代には片手のみ(通常は右手)で持って演奏されていた。
一方、バロックトランペットとは、20世紀に入って古楽器による演奏が復興してきたときに、ナチュラルトランペットの奏法上の困難を軽減するためにナチュラルトランペットに指穴をあけたもの、つまり後世になって開発された楽器のことをいう。楽器の形状や管長は同じなのだが、管に小さな孔をあけてそれを開閉することにより、音程の修正をしやすくしたり演奏上の安全性を高めたりすることができるようにしてあるものだ。孔の数はモデルにより違いがあり、1つのものと3つのもの、4つのもの、の3タイプが開発されている。演奏するときには左手で楽器本体を持ち、孔を開閉するために右手を使う。孔を開けると振動数が変わる(倍音列が変わる)ので、ナチュラルトランペットに比べると音によっては音色が一定しないのが欠点とも言える。
現代のオーケストラではこのバロックトランペットが使われることが多い。それは奏法上の理由だと思う。つまり、楽器の管長が長くて高次倍音を使うため音を外しやすいという難点を避けるために、指穴を利用して安全性を高めた方がいいという判断だ。実際のところ、今は1つ孔の楽器はほとんど利用されておらず、3つ孔のタイプがドイツを中心としたヨーロッパ全域で、4つ孔のタイプがイギリス、イタリア、オーストリアなどで使われている。
現在楽器を製造しているメーカーにおいても、ナチュラルトランペットしか作っていないところもあるが、たいていは3つ孔、あるいは4つ孔のバロックトランペットも製作している。どちらを選ぶかと言えば、歴史的に正統なナチュラルの音の響きや演奏スタイルの格好良さも捨て難いが、モダンの楽器から移行するにはバロックトランペットのほうが適しているのではないかと思う。穴の数は3でも4でも音色的には大差ないので、操作性重視(3つ孔のほうがコンパクト)か、スタイル重視(4つ孔のほうがオリジナルに近い)かで選ぶと良いだろう。
楽器の調性については、バロックの時代には通常は本体をD管に作っておき、C管にするときにはクルークと呼ばれる延長管をつけることによって全音下げていた。つまり、楽器としては本体1本プラス付属品1つで2つの調性に対応できるわけだ。古典派の時代になると、もっといろんな調に対応する必要がでてきたので、ナチュラルトランペットも本体を短めに作り(例えばF管)、Es、D、C、Bなどのクルークをそれにつけてそれぞれの調にする方法がとられていた。
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