« ロマン派のレパートリー(その2 メンデルスゾーン) | トップページ | 東京ゲートブリッジを渡る »

2019/11/25

ロマン派のレパートリー(その3 シューベルト)

ロマン派の作曲家については、自分の個人的な興味からまずメンデルスゾーンを調べてしまったが、音楽史的にはシューベルトを先に取り上げるべきだったかもしれない。というわけで次にシューベルトの曲を見てみよう。

Franz Schubert (1797-1828)

ロマン派音楽の開拓者。この人も天才肌で早くに夭折したがたくさんの作品を残しているのはご存知の通り。作品番号のD.はO.E.Deutscheの番号で概ね作曲順に割り振られている。トランペットを含む作品は主に交響曲とミサ曲である。

下記リストは作品名、作品番号、作曲年、トランペットの調性の順に記載

・交響曲第1番 D.82(1813)D(第16倍音まで)
・交響曲第2番 D.125(1814-1815)B/C(第13倍音まで、1stにミ♭あり)
・交響曲第3番 D.200(1815)D(第12倍音まで)
・交響曲第4番 D.417「悲劇的」D.417(1816)C/Es(第11倍音の吹き分けあり)
・交響曲第5番 D.485 (1816)トランペットを含まず
・交響曲第6番 D.589 (1817-1818)C
・交響曲第7番 D.729 (1821)ピアノ譜のみで未完
・交響曲第8番「未完成」D.759(1822)E(第10倍音まで)
・交響曲第9番「ザ・グレート」D.944(1828)C/A(in Cは第10倍音、in Aは第12倍音まで)

・コンチェルトシュトゥック(VnとOrch.のための)D.345(1816)D(第11倍音まで)
・劇音楽「ロザムンデ」D.797(1823)D(序曲)D, E(全曲)

・ミサ曲第1番 D.105(1814)C/F(第12倍音まで)
・ミサ曲第2番 D.167(1815)トランペットを含まず
・ミサ曲第3番 D.324(1815)B(Kyrieにラの音が1回ある)
・ミサ曲第4番 D.452(1816)C
・ミサ曲第5番 D.678(1819-1822)B/C/E(この作品番号以降の曲はTrb付き)
・ドイツ・ミサ曲 D.872(1827)B
・ミサ曲第6番 D.950(1828)B/Es/C

・歌劇「フィエラブラス」D.796(1823)B(序曲)

シューベルトに関しては、時代もベートーヴェンとほぼ重なっているし、トランペットの用法は古典派と全く同じで全ての曲をナチュラルトランペットで演奏することが可能だ。曲につけたカッコ書きにある通り、シューベルトの場合はむしろ若書きの曲の方が難しく、歳をとるにつれて譜面が簡単になっていくのが面白いところだ。特に交響曲の第1番などは最初から終わりまで第16倍音(ドの音)が頻発し、これが in Dということはすなわちバッハのロ短調ミサやクリスマスオラトリオと同じ音という、ラッパ吹きに喧嘩でも売っているのかという曲でびっくりしてしまう。おそらくラッパという楽器のことはあまり知らず、「出る音域はここからここまでなのね、ハイ」って感じで作ったんだろうけど。

 Schubert-sym1_20200527101401
   譜例:交響曲第1番冒頭 1st Trumpet in D


実際に音にしてみてラッパのポテンシャルに失望したのか、ラッパ吹きからクレームがついたのか、未完成やグレードでは最高音も第10倍音(ミ)まで(グレートのin Aの12倍音もC管ならミだしね)という"優しい"扱いになってる。

自然倍音以外の音、D.125のミ♭の音(2回だけ)と、D.324のラの音(1回だけ)についてはどう解釈したらいいだろうか。考えられるのは、①シューベルトが勘違いした ②写譜屋が間違った ③楽譜上のしみか汚れの読み間違い くらいかなあ。でもそれらの音は和声的には問題がないので、多分③はないだろうし、同じ理由で②も考えにくい。よって①の可能性かなと思っているんだが。ベートーヴェンとは違い、シューベルトにとってトランペットはそんなに重要な楽器ではなかったようだし、ちょっと筆が滑ったのかな。

この通りトランペットが地盤沈下する一方で、1820年代に作られた曲(ミサ曲第5番6番、未完成、ロザムンデ、ドイツミサ、グレート)ではトロンボーンが大抜擢されており、テーマの提示からコラールの厚み、クライマックスでの強奏に到るまで、縦横無尽に活躍する。金管楽器のオーケストレーションでは通常ホルンが1番というのが定番なのだが、シューベルトの場合はその位置にトロンボーンが座っていると言っても過言ではない。アルト、テナー、バスと声部が揃っていて、おまけにスライドのおかげで完璧な和音を奏でることができるというその長所を歌曲作家のシューベルトが愛さないわけはないもんなあ。

|

« ロマン派のレパートリー(その2 メンデルスゾーン) | トップページ | 東京ゲートブリッジを渡る »

トランペットの話題」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ロマン派のレパートリー(その2 メンデルスゾーン) | トップページ | 東京ゲートブリッジを渡る »