The Cambridge Encyclopedia of Brass Instruments
金管楽器奏者や関係者にとっては必携の本だと思うので紹介かたがたお勧めしたい。(以下、やや文章が硬いのはもともと翻訳出版用のシノプシスとして作文したためです)
"The Cambridge Encyclopedia of Brass Instruments"
『ケンブリッジ金管楽器百科事典』
- 編者:Trever Herbert, Arnold Myers, John Wallace
- 総ページ数:612ページ
- ISBN:978-1-107-18000-0
- 発行年:2019年Cambridge University Press
【編者及び作者について】
Trever Herbert:イギリス・王立音楽大学名誉教授。専門は音楽学。トロンボーン奏者としてBBC交響楽団やタヴァナー・プレーヤーズなどで演奏していた。
Arnold Myers:イギリス・エジンバラ大学名誉教授。専門は音響学。元・同大学楽器博物館の館長であった。
John Wallace:イギリス・スコットランド王立コンセルヴァトワール教授。トランペット奏者としてロンドン交響楽団、フィルハーモニア管弦楽団などで演奏したのち現在はソリストとして活躍している。
項目の執筆は、それぞれの専門分野の学者あるいは第一線で活躍する演奏家に委嘱しており、執筆に携わった専門家は編者の3人を含む35人、15カ国に及んでいる。
【内容】
本書は金管楽器に関する総合辞典である。辞典のメインとなる部分では、項目が全てアルファベット順に記載されており、見出し項目数は420。カテゴリー別に分けると、楽器(約100)、金管楽器に関わるトピック(約170)、人物(約130)、重要な音楽作品(約20)など、広範囲にバランスよく選択してある。また、項目数が多くない分、一つ一つの解説が詳細なものとなっている。メインの部分のあとに5つの別表が添付されており、それらは世界各地の楽器の名前、それぞれの楽器の音域、楽器メーカー、各地の楽器コレクション、歴史的教本の徹底的かつ詳細なリストである。そして巻末に参考文献一覧と索引がつくという構成となっている。詳しく丁寧な項目説明に加えて、参考文献と索引・検索機能が充実しているのもこの本の大きな特徴である。
【本書の優れた点】
金管楽器に関する本としては初の充実した本格的な辞典である。各地で調査や活動をしている第一線の専門家が最新の情報を元に執筆しており、内容の信頼性も高い。また、西洋音楽に特化することなく、世界各地の金管事情の記事も含んでおり、時代に関しても古代から現在に至る歴史をもれなくカバーしている。
金管楽器の歴史を扱った本としては、アンソニー・ベインズの「金管楽器とその歴史」(福井一訳、音楽之友社)が挙げられるが、執筆・出版されてから年月も経っているので情報も古く、また辞書的な用法には適していない。また特定の楽器に関していえば、「トランペットの歴史」(エドワード・タール著、中山冨士夫訳、ショット・ミュージック)などの本もあるが、これも読み物であり辞書的な役割は果たしていない。このように今回の本書のような金管楽器全般に特化した辞典は今まで類書が見当たらない状況である。金管楽器に関して調べ物をする際に最適であるのはもちろんのこと、それぞれの項目自体読み物としても読み応えのある内容となっている。まさにプロフェショナル、アマチュアを問わず、金管楽器を演奏する者、学者、研究家、あるいは音楽愛好家など幅広い層に歓迎される本だと思う。
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どこかの出版社から日本語訳が出ると嬉しいのだが(そしてその翻訳作業に関われることができればもっと嬉しいのだけれど、今のところまだ見込みなし)
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