ロマン派のレパートリー(その11 最終回 ワーグナーほか)
さて、ナチュラルトランペットで吹けるロマン派のレパートリー、もうほとんどカバーしてしまったので今回で最終回。
ワーグナーの曲ではトランペットが大活躍するが、あまり有名ではない初期作品ではナチュラルトランペットが使われている。
Richard Wagner(1813-1883)
・演奏会用序曲 WWV20(1831)2 Trombe (D)
・大演奏会用序曲 WWV27(1832)2 Trombe (C)
・交響曲ハ長調 WWV29(1832)2 Trombe (C/F)
何を勘違いしたのか、1楽章に1ヶ所だけラのオクターブが出てくるが、それ以外は全て自然倍音
・歌劇「妖精」WWV32(1833)2 Trombe (E/C/Es/B/D/F/A)
なぜか2幕のフィナーレで1ヶ所だけ1st Trp in D にミ♭あり(ホルンと同じ音)
・序曲「クリストフ=コロンブス」WWV37(1835)2 Trp (Es), 2 (D/Es), 2 (C/Es)
1st Trpと5th Trpにシの音がかなりの頻度で出てくる(メロディの一部)
この曲のラッパの扱い方は巧みだ。曲の途中でトランペット主体のファンファーレの部分があるのだが、数小節単位でコードが変わっていくところを2本ずつの異なる調の楽器でリレーしながらカバーしている。苦肉の策とも言えるが。
1段目:Trombe 1,2 in Es、 2段目:Trombe 3,4 in D、3段目:Trombe 5,6 in C
・序曲「ポーランド」WWV39(1836)2 Trombe piston (F), 2 Trombe (C)
この曲からバルブトランペットを使用。しかものっけからソロありだし、全曲にわたって旋律をバリバリ吹いて大活躍する。ワーグナーはトランペットの音をイメージしていたのに、それまでは制約があって使うに使えなかったということか。完全に呪縛から解き放たれた感じ。
・序曲「ルール・ブリタニア」WWV42(1837)2 Trombe なんとか(D), 2 Trombe ordini (D)
Trombe ordini は通常のナチュラルトランペットということだろう。Trombe なんとかは Trombe e seiaveのようにも読めるのだが対応するイタリア語が見当たらない。譜面から見てバルブトランペットを指定していることは間違いない。
・歌劇「リエンツィ」WWV49(1838)2 Trombe ventile, 2 Trombe ordin.
バルブトランペット2本とナチュラルトランペット2本の組み合わせ(序曲は4本ともD管)
このリエンツィを最後に、ワーグナーはバルブトランペットに鞍替えしている。具体的には1839年の序曲「ファウスト」、1941年作の歌劇「さまよえるオランダ人」以降の歌劇、楽劇の全てがクロマティックで書かれているのだ(マイスタージンガー序曲の3rd Trumpet in C などの例外を除く)。
そして以下の作曲家の作品はバルブトランペット想定なので一部の例外を除きナチュラルトランペットで演奏することはできない(ブラームスはよく知られているようにトランペットを古典的な書法で取り扱ったが、非自然倍音も多く、このカテゴリーに入れることにした)。
・Franz Liszt(1811-1886)
・Giuseppe Verdi(1813-1901)
・César Franck(1822-1890)
・Anton Bruckner(1824-1896)
・Johannes Brahms(1833-1897)
・Camille Saint-Saëns(1835-1921)
・Modest Petrovich Mussorgsky(1839-1881)
・Petr Ilych Tchaikovsky(1840-1893)
・Antonín Dvořák(1841-1904)
例外としては、サンサーンスの交響曲第3番オルガン(1886)がある。3管編成のトランペットは1st,2ndがクロマティックだが、3rdトランペット(C)は自然倍音のみで書かれている(2ヶ所だけ非自然倍音のシの音がある)。
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コメント
>ルール・ブリタニア
全集版の校訂報告では sciave と読んで、Trombe a chiave のことと解釈しています。
投稿: kasumi | 2024/10/13 13:19
kasumiさん、コメントありがとうございます。
Trombe a chiave とはキイ・トランペットということですね。やはり当時イタリアのオペラを中心にかなりキイ・トランペットが使われていた影響なのでしょうか。情報ありがとうございます。
投稿: ブログ主 | 2024/10/13 13:54