ロマン派のレパートリー(その6 ロッシーニ)
このあたりでドイツ・オーストリア路線から離れて別の国の作曲家を見てみよう、と言うことでイタリアから。
Gioachino Rossini(1792-1868)
ロッシーニといえばオペラ。1810年作の「結婚手形」を手始めに40ものオペラを作曲し若くして大成功を収めた。が、早々と人生の中盤(37歳)で全てのオペラの作曲を終えている。編成は常に2本、オペラはどの曲も自然倍音で演奏できるし、使用法も常識的(音域は第3倍音から第12倍音まで。ピッチのズレやすい音の中では第7倍音がたまに出てくるだけで、第11倍音は使われていない)。
主要なオペラを作曲年順にリストアップしラッパの調性を付記したものが次の通り(本邦での演奏頻度を勘案し、セビリアの理髪師とチェネレントラ以外は序曲の調性のみを記した)
・アルジェのイタリア女(1813)C(序曲)
・セビリアの理髪師(1816)A(序曲)A/B/C/D/Es(全曲)
・チェネレントラ(1817)B/Es(序曲)A/B/C/D/Es(全曲)
・泥棒かささぎ(1817)A/E(序曲)
・セミラーミデ(1823)A(序曲)
・ランスへの旅(1825)A(序曲)
・ウィリアム・テル(1829)E(序曲)
ウィリアム・テルを最後にオペラから卒業したロッシーニはその後グルメ生活をエンジョイしていた(ステーキとフォアグラのロッシーニ風という料理は彼の名前からつけられたものだそうだ)が、その後も宗教曲などの作品が単発的に作られている。検証できる作品が多くないのが残念だが、いつからバルブトランペットに切り替わったかが大まかにわかる。かなり大まかすぎるきらいはあるが。。
⚪︎ スターバト・マーテル(1842)A/B/C/Es
この曲はオペラと同様、自然倍音のみ。まだナチュラルトランペットが主流だったのだろうか。
× 小ミサ・ソレムニス(1863) 2 Tromba (A/C/D/E) & 2 Cornetti (A/B)
小ミサと言いながらもこの曲には4本の楽器が使われており、4つのどのパート譜も完全なクロマティックである。さすがにスターバト・マーテルから21年も経っているからバルブトランペット/コルネットが当たり前だったんだろう。面白いのは、バルブで半音階が可能なのだから、スコアにおける楽器の調性はどれか一つ(例えば全曲inCで書くとか)でも良さそうなのに、いちいち管を指定するあたり、前時代の名残のように見えてしまうところ。
譜例:小ミサ・ソレムニス、 7 Cum Sancto Spiritu より金管パート部分
(上から3段目 1,2 Tromba in C, 4段目 2 Cornetti in B)
さて、話はロッシーニに限らないが、自分がナチュラルトランペットで演奏活動を始めて痛切に感じたことの一つに、調性をより意識するようになったということがある。つまり最後のポイント(前時代の名残?)を立場を変えて考えてみると、作曲家が楽器の調性を意識していた時代のレパートリーを、我々現代の奏者が手持ちの楽器(C管にしろB管にしろ)で移調して演奏して済ませてしまう方がむしろ現代ならではの奇習というふうにも思えるのである。なぜならば、古典派ロマン派を問わずナチュラルトランペットを想定して書かれた曲では、それぞれの調でのトニック(主和音)とドミナント(属和音)を強調するためにラッパとティンパニを使っていることが多い。したがって演奏する方もそれぞれの音程や和音、キャラクターをちゃんと表現することが求められているからだ。やや我田引水になってしまうが、そのための一番の近道(むしろ本道)は、指定されたそれぞれの調の自然倍音が出せる楽器を使うということではないかと思うのだが、どうだろうか。
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