僕のバッハ演奏記録 vol.5(バッハの無茶振り)
バッハがナチュラルトランペット奏者にとって難しい理由には、音が高いとか細かい音符や跳躍があることなどに加えて、本来ナチュラルトランペットでは出せない音を要求していることがある。
本来ナチュラルトランペットで出せる音というのは、いわゆる自然倍音(Natural harmonics)で、次の音に限定される。
しかも、これらの音の中は平均律とは音程が大きく乖離しているものがある。
(図表のーと+で表示)
そうした事情をバッハは十分に熟知した上でラッパ奏者たちに無理難題をふっかけてくるのだ。
典型的な曲がカンタータの第77番のアルトのアリア。ラッパの譜面はこうなっている。
先ほどの自然倍音の表と比べてみると、まず出だしから低めになってしまうラの音で始まり、2小節目には自然倍音にないドのシャープが出てくる(しかもこの音は頻発する)。他にもミのフラットとかソのシャープなどの自然倍音外の音に加え、高めになるファの音もフラットとシャープを吹き分けなければならない。
これらの作業は、楽器に頼ることはできず、自分の体(体内のレゾナンスや唇の調整)で行うしかなく、これがなかなか大変なのだ。
ちょっと恥ずかしい演奏になるが、穴なしのナチュラルトランペットで演奏するとどうなるか、ちょっと録音してみた。
BWV77-5 (2025年11月 ナチュラルトランペットでの演奏ー冒頭のみ)
使用楽器: Natural trumpet by Markus Raquet
マウスピース: MZ2 by Egger
演奏会では補正孔付きの楽器で演奏するしかないが、それでもなかなかの不安定さだ。
BWV77-5 (2010年4月 バッハ・カンタータ・アンサンブル)
使用楽器: 4hole Long type Baroque trumpet by Egger
マウスピース:BL3 by Egger
ただし、バッハがこのような曲を作ったのには理由がある。
というのも、このアリアが歌っている内容に深く関わっているのだ。
アリアの歌詞は次のようになっている。
Ach, es bleibt in meiner Liebe
ああ、私の愛には
Lauter Unvolkommenheit!
真の欠点が残っている!
Hab ich oftmals gleich den Willen,
神が仰った御心を行おうと
Was Gott saget, zu erfüllen,
何度も試みるたびにその都度
Fehlt mir's doch an Möglichkeit.
私には不可能だということを思い知らされる
そう!
如何に不安定で不完全で不可能なのかの象徴として、バッハはトランペットに苦行を強いたのではないかと思われるのだ。
付記:実際1723年8月に初演された際には、ライヒャはTromba da Tirarsi(スライドトランペット)を使用したと考えられるので、音程の調節はなされたのであろうが、それにしてもこの曲の特異性は際立っている。
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